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ウィッカ王の名は戦場において恐怖の代名詞であった。
広大な意識体をもってして宇宙のどこにでも出現し、なぜか、ブリタニアでの戦闘でその能力が確認された。ガリアを離れたかと思って攻勢に出ればなぜかいる。本体の所在は行方不明。
「奴は今どこにいる! どこから能力を使っているんだ」
数多の兵と指揮官にトラウマを与えたロマ王子ウィッカ王。
本人は何の自覚もなく保護者によしよし褒められている最中だなどと誰も知る由もない。
***
ヤマトは思ったより劣勢だった。コンロンもブリタニアも日和まくるし掌返しまくるし。
大して皇軍は全星系の王軍を足した総数とほぼ同規模で、さらにガリア、オリエントがついてる。ガリアは別件で戦争中だから半数だ。それでも多い。
志摩王はクズ夫妻を手放してでもジョーカーがほしかったんだろう。
『志摩王、背後からオリエントを叩く。そちら派手に陽動してくれ』
『クロ!? 連絡が途絶えたから心配した』
『……蛍に捕まって』
『あいつ本当に何なんだ!?』
俺も聞きたいよ。ほんと蛍なんなの。今も俺を抱えてご満悦ですよ。
「クロネ……このまま二人で逃げてしまおうか」
どこで暮らすんだよあんたのその容貌で。どこ行っても一発バレすんだろ。あと冗談じゃなく鷹鶴が首括る。
「蛍……実は俺には血が繋がった弟がいてな」
ぴくっと蛍が反応する。
「俺とは母親が違う。あんたの母方の親戚で、あんたにちょっと似てる。すごくすごく綺麗で真面目な子だ。まだやっと20になったくらいかな。話し方がたまに俺に似るらしい。俺によく懐いてて、兄上兄上って言うんだ。かわいい」
「よし皇軍を倒そう」
蛍の行動基準って分かってしまうと単純だ。
「俺もこれほどの大軍と戦ったことはないが、劣勢の場面ではゲリラ戦術が常套であろう。
局地戦、奇襲、疑攻。もちろんジャマーは働いている。だからな、クロネ。お前はスピーカーを乱すだけでよい。死を彷彿とさせる不快な音を絶えず立てるのだ。恐怖に混乱、音の与える影響は計り知れない」
「ところで蛍。うちはとにかく、敵の補給線はどうなってるんだ」
「まず御料がある。皇軍が持つ巨大母艦では星の子の栽培で補給が必要ないとまで言われておるな。反物質の生産も可能で、全ての戦艦・戦闘機が反物質炉によって賄われている」
おかねもちめ!!
「じゃあ補給線を断つって戦法は使えないんだ」
「そうでもない。星の子だけではどうしても生産が追いつかないものがある。水だ」
「ああ……大量消費するもんね、人間て」
「もちろん浄化装置もあるが、それだけではな。もうひとつ手段がある」
「なに」
「戦利品を過剰に与える。戦争は人が死ぬ、遺族年金だけでも大変な額である。皇軍も王軍も少しでも金が欲しいのだ。ゆえに戦利品を無駄には出来ない。だが、戦利品が増えれば寄港せざるをえない。そこを狙い……」
改めてコイツこえぇ。
地下組織はその性質上、隠れることに長けている。捕まる海賊なんてのは何も知らない下っ端ばかりで、上層部は俺とハイドを騙すほどのステルス性能を持つ。
そんな地下組織が命綱である水なんて大切なものを握ったら……戦争どころじゃない。
俺もそうだけど、クラライア帝もさあ。アダムアイルじゃん。生まれた時から最高の能力に恵まれ、最高の軍隊を持つように育てられた。で、宇宙はテロ組織やマフィアや海賊がいる以外は平和。
格下相手のヌルゲーナメプしかしたことないと思うんだよ。
「ど、どうして教えるんだ……これから戦う相手に」
「基礎中の基礎しか教えとらん。それに俺はお前が可愛い、教えられることは何でも教えたい。尤も、お前に俺が授けられる過酷な戦闘訓練などは伝授したくないが。そんな苦労は他がすればよい」
「過保護……」
「なんでもよい、なんでもよい。俺はお前さえよければよい」
歪みねえな蛍は。
対オリエント。これが簡単に落ちた。簡単っても蛍の手腕あってこそだが。俺は言われた戦闘区域の敵艦を弄って回る作業ゲーに徹しただけ。
ちょいちょい人形に意識移してガリアとも戦ってた。
戦闘続行不可能なところまで行って次。ただし、オリエントと戦っていた間も当然皇軍と何度かやりあってたし、水補給線絶ちとか戦利品押し付け作戦とか実行してた。ゲリラ戦もな。
「そこまで私とやりたいならいいわよ。相手になってあげるわ」
ついにクラライア帝がアップを始めました。
「蛍さま、囚人兵団が動きました。こちらへ向かっています」
「潜伏しろ。この軍は囚人兵とやれるほど練度は高くない」
誰だってそこまで練度高くないと思うよ! 強制的に何十年も戦わされ続けて生きのびた奴らなんだ。
「潜伏したまま敵旗艦の前に出現してドーン! とか出来ないの」
「潜伏システムはその間、一切無防備になる。直後も機能回復に時間がかかるので、潜伏したら安全な場所で顔を出すのが普通だな。むしろ潜伏したままでいることを前提としている」
うん。こんな船、見たこともないもんな。地下組織がいかに潜ったまま出て来なかったかが窺える。出ようにも出にくい仕様だったんだな。
「どうするの」
「陸に降りる。というより御料惑星を占拠する。下準備をしていたので後は頂くだけだ。そこを盾に陸戦を行う」
「……あんたが駄目だって言ってもついてくからな」
「置いていけば置いていったで何かと気を揉む。嫌だと言っても連れていくさ」
蛍ならこんな時、絶対だめ、お留守番してなさいって言いそうなもんだが。何かと気を揉むって、なんで?
そういや俺も記憶制限受けてた時「なんとなくだけどこうだと思う」ってことあったよな。なんとなくは俺の行動パターンが読めるのか。
幾度となく拉致された記憶のほうかもしれないが。
御料惑星ってのは皇室の物資を製造する星。
性質上、皇星の側にある。普通はこんなとこに乗り付けられんが、今は皇軍が出払ってるので……出払ってるっても当然、護衛艦が哨戒してたが。
『こちらロマ王子ウィッカ王。護衛艦隊に告ぐ、ただちに惑星に着陸し武装解除せよ。繰り返す、こちらロマ王子ウィッカ王である』
スピーカーをジャックして以上のようなこと(蛍の指示)を述べると、非常に素直に敵艦が降りていく。戦うなという指示があるのかもしれない、ここまで速やかだと。
それにしても「ロマ王子ウィッカ王」を強調しろって指示はどういう意味だ?
「さて、制宙権を放棄したとはいえ、あちらも武装解除したとは限らん。おいでクロネ、モビルギアに搭乗しなさい」
ハンガーにつれてかれるとき、ほぼエスコートの様相。モビルギアに乗る時も手なんか貸してくれて。俺はなんだよ姫君かよ。
「クロネ、必ず守るが危険は常にある。決して無理はせぬように」
言い含められてから、ハッチを閉じた。
正直、陸戦は勝手がわからんから無理とか無茶の加減が分からん。ほぼ初陣なのでそれこそエスコート宜しく。
とりあえず、まずは惑星の機器をジャック。
『こちらロマ王子ウィッカ王である。御料惑星全域に告ぐ、この土地はロマ王子ウィッカ王が占領した』
実際に喋ってるわけじゃないんだがロマ王子ウィッカ王連続すると噛みそう。
御料惑星は保養惑星並に自然が多く美しい場所だった。黄金の稲穂も麦畑もある。離宮もあるんだとか。俺たちはそこを拠点にする。
拠点ってだけでずっといるわけじゃない、ほぼゲリラ戦になるから、地下組織の惑星にいたときみたいに潜伏がメインになる。
「このままだと制宙権は奪還されるよね」
「御料を焼き払う訳にはいかんからな。それに、それをするなら此方も原子力爆弾をバンバン撃ち込んで不毛の土地にする所存である。あちらもそれは分かっているだろう」
非人道兵器はどちらかが使うと収集つかなくなるから、暗黙の了解……というか非人道兵器制限機構があって、これには異星種も参加してる。つまりだな、非人道兵器を使用すると、基本的に俺たちの戦争には関与しない、俺たち以上の技術力を持った異星種が問答無用でスタァアアップしにくる。怖い。
原爆や水爆ってのは大した威力じゃないが、とにかく土地を汚染する。しかし、蛍はそれすら利用する気でいるようだ。
ステーションに船をつけると、案の定、敵が待ち伏せていた。完全アナログのモビルギアにクラシックガン。
「囚人兵だな」
窓から覗く蛍が言う。
「御料に囚人兵を置くとはな。少々厄介なことになった。陸に上がれば母艦は宇宙へ戻さねばならん、そうせねば制宙権を皇軍に奪われる。
クロネ、状況が変わった。母艦に残り、制宙権を維持してくれ。怖くないか?」
怖いとか怖くないとか……
「蛍、危ないんじゃないか」
「危ないさ、どの戦場であっても。お前もだ、クロネ。決してその能力は無敵の力ではないぞ。お前を一人にしていくのは心苦しいが……」
「この組織は蛍がいなきゃ成り立たないだろ。あんたは残って指示を出したらどうだ」
「囚人兵がいるならば、一人でも練度の高い兵が欲しい。それが俺自身であってもな」
い、行かせていいものなんだろうか……行かせないと言っても俺に止める術はないけど。
やがて蛍たち陸戦部隊は隠し搭乗口から出ていったが、すぐに戦闘が始まった。銃声にぎょっとして身を乗り出そうとした俺をイケ髭おじさんのヒッケーに押し止められる。
「御自分の役割をお忘れにならぬように」
この人だけ育ちおかしくない? すごくエレガントなんだけど。地下組織の惑星に住んでたロマって殆どガラが悪かったのに。
「ユビキタス化の驚異、と申しまして。全てをシステムで繋ぐことは便利ではありますが、貴方のような機械感応はおろか、手動侵入で危機に陥ることが多々あります。
ゆえに我々はクラシックシステムによって身を護っているのですが、こうした時は悔やまれます」
敵を欺くにはまず自分からと言わんばかりに、蛍たちの位置を出せない。
そのかわり、俺は宇宙から敵の出現位置を確認していた。どうもおかしいんだ。彼らは戦闘をしては切り上げ、また移動する。そしてそこで戦闘が開始する……
「ヒッケーさん、敵が蛍たちの位置を正確に把握してるみたい。俺でもそんなことできないのに。どう思う?」
「いや、ウィッカ王にも分からないのなら、私ごときでは到底」
戸惑ってヒッケーさん。
ということで、俺はデオルカン皇子に連絡をとった。
『いま大丈夫ですか』
『おう、戦闘中だが全くもって余裕だ。オトツバメは戦闘機でも惚れ惚れする戦いぶりだ。さすが俺の嫁。はっはっは』
盛大にノロケられた。
『現在、御料を占領するために蛍たちが陸に下りたんですが、囚人兵が待ち構えていて、隠しハッチからの潜入を見破られ、潜伏先も全て先回りされているようなんです。俺でも蛍たちの居場所なんかわからないのに。
軍人として考えられることはありますか』
『軍人としてどうこうじゃない。そいつはエヴデルタの仕業だな』
『超AIが人間の戦争に手を貸しているっていうんですか』
『ふん。そういうことか。
今回の戦争、おかしなことばかりと思っていた。始まりはいつだ? お前が志摩で誘拐された時からか。敵が分かったように最高のタイミングで事をなしていた。だが、別にそいつらが特別有能だったわけじゃねえ。
クラライアにしてもそうだ、奴はここまで頭の煮えた女じゃない。おかしいと思っていた、裏で糸を引いているのはエヴデルタだ。
猫、いますぐコリドンを引っ張り出して来い』
合点承知。
ところが、ゲームに接続できない。どういうことだ?
『皇子、ゲームに接続できません』
『ところで俺は皇子じゃなく大公なんだが。ふむ、出来ないとな。これはエヴデルタに消されたと見ていい。他の超AIに会ったと言ったな、確かフッセとかいう。それにコンタクトとれるか』
『でも、いま俺が離れると制宙権が』
『オトツバメをそっちにやる。到着次第、フッセに会え。これは宇宙全体の運命がかかっていると思え』
お、重い! 俺の能力暴走にそんな大任が。脳が損傷してからやったことないのに。
「ヒッケーさん、こっちは制宙権とってるのに勝てないんですか!」
「惑星の上空では悲惨なまでの空爆を行っております。ほとんど焦土作戦に近いほどの。しかし、戦闘が終わる気配がありません」
「蛍から連絡は」
「傍受される恐れがあるからでしょう、一切ありません」
「蛍にエヴデルタが絡んでることを教える方法は! この状況じゃ傍受なんて関係ない」
「試みます」
ああー早く葛王子到着してくれー。葛王子がくるってことは……
「クロネ! きたよー」
わぁああ大きくなってる! 170センチくらい?
「葛王子でっか!」
「えへへ。おっきくなったので婿さまと無事初夜も迎えました!」
そりゃめでたい。でも言うほど大きくはなってないんだよな……デオルカン殿下との体格差は殆ど埋まってないと思われる。
「蛍がぱーになってるって?」
「……志摩王が言ったのか」
「うん」
あの人いつも端的な説明しかしないよな。
「じゃあクロネは暴走状態になるの。危なくないのかー」
危ないけども。
コリドンのことも心配だ。人類に唯一味方だったはずのエヴデルタが敵なら、超AIにコンタクトをとる手段はもうこれしかない。
蛍の使ってたデータリンクシステムを借り、目を閉じて深く潜る。なぜかこれはいつもより簡単だった。誰かが手を引いてくれたような、導いてもらったような感覚。
なんだろう、と意識を差し向けると、そこにいたのはハイドウィッカーだった。
「なんで!」
叫んだが、ここには喉なんてものはない。全ては印象、メタファーだ。つまりハイドそのものじゃなくて、ハイドのメタファーなんだな。
どうしてハイドが狭間にいるんだ?
『よう、クロネ。俺様はずっとお前の中にいたんだぜ。マイクロチップの中の記憶の俺、つまり幽霊みたいなもん。言ってしまえばAIとしての俺だ』
よくわからんが……
そうか、お前、ずっと俺の中にいたんだな。ぜんぶ死んだんじゃないんだな。消えてなくなったわけじゃない。人に魂ってもんがあるなら、このことを言うんだろう。
会いたかったなんて口が裂けても言えないけども。
ハイドのことも気になるが、ここへ来た理由、フッセを探した。
「フッセ! ぷちフッセいるか。コリドンが行方不明だ。エヴデルタも暴走してる。こんなの人間にはどうしようもない」
呼びかけるとすぐに「はあい」と返答があった。
いつか見たまるい迷子案内AIがイメージとして現れた。
『コリドンのことは察知してます。あなたのアクセスを待っていました。正確には、そちらの方のアクセスを』
と、ハイドを示す、メタファーがある。
『こちらへ来てしまった以上、我々はあちらの宇宙に干渉できません。ここは狭間、唯一あなたがたとコンタクトがとれるところ。
エヴデルタの所業は見過ごせません、でもどうしようもないんです。だからそちらの貴方を超AIにまで引き上げます。危険を伴いますが……わかっていますね?』
『わかってるよ。クロネに必要以上に手を貸さないほうがいい、だろ。クロネ、俺が超AI化したことは伏せろ。過去の惨劇が再び起こる』
人間が超AIに頼りすぎて堕落しきった社会のことかな。なんでも分かる相手がいたら、そりゃ頼りたくもなるよなあ。
『それではアップグレードを開始します。バッファリング、データ移行、インストール、終了。さ、あとはご随意にー』
えらく簡単に感じるが、それは彼らと俺たちの処理速度が違いすぎるため。フッセは俺のために「こういうことをやりました」と伝えてくれているだけで、言う前に既に終わってるんだと思う。
『ああ、変な感じだ。こうしてお前に分かるように言語化するのも。クロネ、俺達はもう話さないほうがいい。
けどよ、これだけは言っとく。俺は一番いい死に方をしたよ。俺はよー、ずっと寂しかったからよ。お前と相棒みたいになれて嬉しかったし、お前の中で生き続けるなんて最高じゃねえか」
よせよ。お前、何度俺を泣かせれば気が済むんだ? 強姦魔のくせに!
起きた時に泣いてたもんだから気恥ずかしくなったが、データリンクルームを出ると船内が静かでぞっとした。慌てて管制室へ駆け込む。
「ご無事でなにより。皇軍が攻めて参りました」
ヒッケーさんが厳しい顔で少しだけ息をついた。間に合った、ということだろう。しかし、敵影もなかったのに皇軍が到着してるって、俺はまたどんくらい寝てたんだ。
葛王子はすでに出撃しているらしい。それは縦横無尽にワンマンアーミーしてる戦闘機があるからすぐ分かった。
「かなり劣勢だな」
「はい。まるでこちらの出方を分かっているかのごとく……私では限界があります」
「大丈夫。原因は分かった」
船長に事情を話して席を変わってもらい、船のシステムと同期する。ハイド、頼む。
『おーおー、こりゃ確かにエヴデルタだ。今までよくも好き勝手してくれたな。俺もこいつのせいで死んだんだろ。タイミング良すぎたもんなあー。
人間を玩具にして楽しかったか、エヴデルタ。だが、それもここまでだ。やつに引導を渡せるのがこの俺ってのがいいねえ』
御託はいいからさっさとしろ。
そこからは、ハイドとエヴデルタ、超AI同士のエミュレーション合戦だった。簡単に言うとジャンケンで何を出すかを互いにシミュレーションしまくって収集つかない感じ。
これで惑星にいる蛍もかなり楽になるだろう。
「ヒッケーさん、今なら行ける。一気に攻勢かけて」
「了解しました。全艦に告ぐ!」
事態がやっと動いた。
皇軍相手じゃ本来歯が立たないが、こっちには俺がいる。スピーカーのジャック、視覚のジャック、仮想次元のジャック、セキュリティのジャック、微力な力ながらもやれることはなんでもして妨害した。ジャマーが追いつかないくらいに。
そうして三日三晩の戦いが続いた後、クラライアから入電があった。
『エヴデルタが私たちの監視どころじゃないから会いましょ。これまでのこと、全部話すわ』
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