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お留守番
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翌日。
私室の障子を開け、すっかり晴れ上がった空を見上げ、起きてきた悟空に声をかけた。
「おい悟空、子供たちの面倒を見ていられるか」
おそらく、起きてすぐ俺の私室に来たのは赤ん坊たちが気になっての事だろう。
子供たちは、半分に折りたたんだ客用の布団の上に寝かされていた。
今は毛布でおくるみがされているが、寺院には子供用品も服も全く足りていなかった。
「えっ…俺に任せていいの、三蔵」
辛うじて緊急用として納屋にあった粉ミルクを悟空に渡す。
「空腹のときはコイツを飲ませろ。必ず熱湯で入れてから水で冷やせ。オムツは…今はタオルで代用してるから、タオルを変えて、変えるときにこのウェットティッシュで…」
最低限の説明だけをするが、悟空は真剣な顔でこくこく頷いていた。
しっかり世話をしてくれるつもりらしい。
「できるか?」
「やる!だって俺、お兄ちゃんだから!」
お兄ちゃん?はぁ?じゃあ俺は何なんだ?
そういいたくなったが、せっかくやる気になっている悟空のやる気を削ぐ必要はないだろうと口をつぐんだ。
平和な顔をして寝ている二人をそっと撫でてから、身支度をするために立ち上がった。
町をしばらく歩いて、商店が繁盛している通りに出ると、赤ん坊用品を扱っている店を見つけることができた。
優しそうな顔をした、赤ん坊をおんぶした若い女性がやっている店だった。
もし根掘り葉掘り聞かれたらいやになってしまいそうで一瞬身構えたが、店主は何も言うことなくこちらを微笑んで見つめたのみだった。
オムツにミルク、ウェットティッシュ、服、抱っこ紐におんぶ紐…必要なものを手に取り、値段なんて気にせずそのまま会計してもらう。
会計しつつ、女店主は値段よりも子育てが気になるのか、俺に道具やオムツの使い方などを説明してくれた。
買ったものをそのまま布袋に詰めてもらい、入りきらなかったオムツだけを手に取って店を後にしようとすると、ガッと肩を掴まれる。
「ねぇ、いつからパパになったの…三・蔵・サ・マ」
「僕たちに隠れてそんな…そんなことないですよねぇ?」
良く聞き知った声だった。
「…なんだてめぇら」
振り向くと、予想通りの赤と緑。
「冷てぇなあ、三蔵、俺らにも教えてくれたっていいじゃんよ、お子さんできたんだったらさ」
「お祝いくらいちゃんと包みましたよ」
「できてねぇよ」
チッと舌打ちをすると、寺院に足を向けた。
すると、二人はついて来ようとこちらに寄ってきた。
「悟浄、八戒…てめえら死にてぇのか」
腹が立ってそう口にすると、にやにや笑った悟浄が俺の前に回り込んでくる。
「両手がふさがってる三蔵なんざ怖くねぇっつーの。そんなことより、子供は?嬢ちゃんか?」
「…うるせぇ」
さっさと歩き出すと、八戒が、
「ねぇ、いずれは僕たちも対面することになるんですから…いいでしょう?三蔵」
と言いつつ追いかけてきた。
それもそうなのだが、あっさり認めるのはなんだか悔しく感じ、そっぽを向いて足を進めた。
悟空side
「雨露、月鈴」
名前を呼びつつ、布団に寝かされた二人を撫でる。
お腹をさすってやると、雨露は嬉しそうに声を上げた。
月鈴は眠っているようだったので、起こさないように雨露を抱き上げる。
すると、雨露の手を握っていた月鈴の手が、雨露から離れて布団に落ちる。
その途端、月鈴が爆発したように泣き始めた。
「うあぁぁぁぁんっ」
「え、嘘、月鈴ごめんな…っ」
布団に雨露を寝かせながら月鈴を抱き上げる。
すると今度は、寝かせた雨露がふぇ…っと声を上げ始めた。
「今度は雨露!?どうしたらいいんだよ、さんぞー!」
今はいない三蔵に助けを求めるが、当然それは無駄。
ミルクかもしれないと思い、月鈴を泣きかけている雨露の隣にいったん寝かせると、月鈴の手が、雨露を探すように動き回る。
やがて、手の甲に当たった雨露の手を月鈴がぎゅっと握った。
すると、泣きそうだった雨露がヒックと一つしゃっくりをした後泣き止んで、静かに涙の浮いた目でこちらを見つめる。
二人で寝かせているのが一番安心かもしれない。
今のうちにミルクを作っておこうと腰を上げた。
ちらと一度子供たちを振り返ってから、給湯室に向かう。
この寺院内で、悟空はいつも差別の対象だった。
差別しないのは三蔵だけで、ほかの僧侶は常に何かしらの陰口を言っていたし、中には直接化け物だという者もいた。
普段はそんなこと気にもしないのだが、今手に持っているのは哺乳瓶とミルクだ。
昨日の今日で、きっと三蔵もまだ僧侶に子供たちのことは話を通していないだろう。
悟空がこの寺院内で子供を匿っていると知れたら、子供たちにも危害が及ぶかもしれない。
そんなことを考えながら、人と会わないように慎重に歩を進める。
給湯室まで進んだところで話し声が聞こえ、ぴたりと足を止めた。
「三蔵様は?」
「それが、今日は出かけてらっしゃるそうだ。なんでも急用だとかで…」
「急用ねぇ…三蔵としてちゃんと働いてから言ってほしいですな、若造だから仕事を軽視されているのでは」
むっとする気持ちをぐっと抑え、二人が給湯室を離れるのを待った。
やがて茶を淹れ終えた二人が出てくるのが目の端に見え、慌てて給湯室に入った。
教えられたとおり、熱々のお湯で粉ミルクを溶かし、流水で人肌に冷ます。
二本ミルクを作ると、そそくさと部屋に戻った。
「雨露、月鈴、ご飯だぞ~」
布団の脇に座り、おとなしい雨露を抱き上げる。
しかし、その手はがっちり月鈴とつながれており、俺の胸元まで抱き上げることはできなかった。
仕方なく腹ほどの高さで抱き上げ、ミルクを咥えさせた。
だが、なかなか難しいもので、雨露はそれを飲もうとしてくれない。
「あれ、おかしいな…三蔵の言ってた通りにしてるんだけどな…」
ぶつぶつ言いながら何度か哺乳瓶の角度を変えていると、雨露が突然哺乳瓶の乳首に吸い付いた。
好きな角度があったらしい。
小さな顔、口、喉でミルクを嚥下するのを見届ける。
綺麗な紫と金の瞳が細められ、ミルクに集中しているのが分かった。
月鈴も泣くことなくそれを見守っている。
ミルクを飲み終えた雨露の口から、哺乳瓶を取り上げる。
それから雨露を立て抱きにすると、その背中をさする。
5回も繰り返すと、けぷっと小さな音が聞こえた。
「雨露偉いな」
よしよしと撫でて、布団に戻し、今度は月鈴を抱き上げた。
やはり今度も雨露と手をつないでいて腹までしか持ち上げられず、腹で横抱きにした。
「はい、どうぞ」
哺乳瓶の乳首を咥えさせ、雨露と同じように角度を調整してやると、その小さな喉が動いたのが見え、安堵の息を漏らす。
これで食事は何とかなりそうだ。
そう思った時、わずかに軋む音を立てて障子が開いた。
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