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旅立ちの時は
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ほんと、貴方には驚かされます。
俺の最後のチャンスを作ってくれた、貴方からのサプライズ。
今から俺は、それを利用して貴方に思いを告げに行きます。
だから――………
旅立ちの時は
親友からメモを貰って約二時間後。
俺は目的地の空港に来ていた。
学校を飛び出して直ぐに目についたのは、なぜか車に乗っている担任で。
いつの間にか、親友が手を回してくれていたようで、本当に彼には頭が上がらない。
「こっからはお前の勝負だ。結果はどうあれ頑張ってこいよ」
「なんですか、それ。………ありがとうございます」
車の窓越しに担任と軽く言葉を交わして、そのまま別れた俺は、会長の姿を探していた。
しかし、普段利用することのない空港は、人を探すにはあまりにも広く、もういないのではないかと諦めの心がわいてくる。
「時間はあるはずだけど……会長、搭乗口に行ったのかな」
近くにあった椅子に座り、息の切れた呼吸を整える。
――――pipipi
「………?」
突然鳴り出した携帯電話。
画面に表示されていたのは、公衆電話からの着信で、
「誰だろ………」
通話ボタンを押し、それを耳元まで持っていく。
「もしもし」
『偉く不審そうな声だな』
「………っ、かいちょ……?」
受話器越しから聞こえる声は、間違いなく探し求めていたあの人のもの。
動揺が隠せず、心臓がバクバクと動いているのがわかる。
――――でも、なんで?
『あいつから………受け取ってくれたみたいだな』
会長の言葉が指すものは、間違いなく親友から受け取ったメモのことだろう。
会長は俺の存在を認識している。
しかし、この辺りに公衆電話はない。
つまり…………、
「俺の姿だけを確認して、もう中へ行ったんですね」
『その言い方だと誤解を招くな。姿を確認したのは、検査機を通ったあとだ』
そう言って、受話器越しから苦笑する声が聞こえてくる。
ここまでは、神も味方しているものだと思っていたが、実はそういうわけではないらしい。
どちらかと言えば、最後の最後に試練を与えたようだ。
「こんなの………いらなかったのに」
『んなこと言うなよ。これで終わったわけじゃないだろ?』
小さく呟いた声も、受話器越しに聞き取れたらしく、励ましの言葉が届く。
でも、一度通ったゲートは引き返せないはずだ。
どうするつもりなんだよ。
『なぁ、仁千穂。俺は馬鹿ではない。仁千穂が来ないこともこうなることも想定はしていた』
「会長?」
『だから、初めから決めていた。仁千穂にはどんな状況下でも会わないと』
「…………な、んですか、それ」
会長は、俺に会うつもりはなかった。
ならなぜ、わざわざ親友を経由して、こんな回りくどいことをした?
そんなに会いたくなかったのか、そのための時間稼ぎだったのか。
携帯電話を握る手の力が弱まり、微かに震え始めた。
『お前が思っている以上に俺は強くない。だからここで会って、決意を鈍らせるわけにはいかなかった』
「なら、どうして……!」
どうしてこんなことを………!
『好きだ仁千穂。お前を知った時から……今日までずっと』
「………っ」
受話器越しから聞こえてくるのは、確かに会長の声で……、これは夢なのだろうか?
この状況、このタイミングで告白するだなんて、心は繋がっても現実は遠くなる……。
「なんで……なんで“今”なんですか……。例え繋がっても何もできないじゃないですか」
震える声、やり場の無い想いは形となってポタポタと流れてくる。
ああ、カッコ悪すぎる。
行き交う人が、不思議そうに目を向けてくる。
『だから、待っててほしいんだ。仁千穂が許す限りの間で良い。必ず俺は帰ってくる。お前のことも含め、誇れる男になってくる。だから―――……』
俺のことを、待っててくれないか。
「かいちょ………」
ああ、涙が止まらない。
嬉しいのか、悲しいのか。それともまた別の理由があるのか。
溢れるそれの止める術を知らない俺は、ただ俯き身体を震わせることしかできなかった。
『悪いな仁千穂、そろそろ時間だ。俺は必ずお前の前に帰ってくる。その時、どうなっていようとな。………じゃあ――』
「ま、待って会長……!」
切られると思った寸前、俺は会長を呼び止めた。
こんなところで言い逃げされるだなんて、これ以上カッコ悪いことはない。
例えこの先の未来がどうであろうと、俺は会長を信じているから。
この想いも変わらないと信じるから。
「俺も会長に釣り合う、堂々と胸を張れる人間になって会長のこと……待ちますから」
『仁千穂………』
「どうか忘れないで下さい。貴方には見えない支えが沢山あることも、俺達がいると言うことも」
『………ああ』
「どうか無理をせず、お体に気を付けて。また………必ず会いましょう」
『約束だな。…………行ってくる』
「………行ってらっしゃい」
受話器越しから聞こえるのは、通話が切れた音。
いつの間にか俺の涙も止まり、心は思いの外清々しい。
飛び立っていく飛行機を見送り、俺は歩きだした。
この先に待つ未来に向かって―――……
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