アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4
-
あれから一年が過ぎた。
俺“達”の時間はこれから始まっていくのだ。
*夏の夜も昼の内 ~4~
「今まで有難うございました」
「くぅ~、新米の癖に一気に社長秘書! トップクラスの仲間入りかよ~」
「まぁ、仁千穂ならなれそうだけどな!」
「社長様に宜しくね~」
平社員として勤めていた会社に終わりを付けるこの日。
軽い挨拶をした俺は、同僚や先輩方から暖かいとも言えない餞別の言葉を貰っていた。
半年前に、社長秘書になると告げたときは色々と言われたが、それでも応援してくれた仲間思いの人達だ。
別に、秘書になったからといってここを辞めるわけではない。繋ごうと思えばいくらでも繋げておける大事な関係者。
「けっ。なんだかんだで、涼一も最大の武器を用意してやがったわけだ」
「先輩こそ、サボり相手が居なくなって真面目に仕事が出来るでしょう」
溜息を吐きながら言った先輩に、俺はすかさず突っ込みを入れる。
先輩にとってサボり相手は俺しか居なかったようだし、これからは多少真面目に仕事も出来るだろう。
というより、してもらわないと困る。
「咲希君の送別激励会は今日の定時後だからちゃんと参加してね」
「態々有難うございます」
先輩の女性社員が用意したらしい送別会の案内を受けとった。
それを見ていると、本当に一年と半年間だけだったけど、いい先輩に恵まれたんだと改めて痛感する。
「じゃあ、仁千穂。最後の仕事でもするか」
「俺の仕事は全て終わってますが?」
先輩の発言に俺は疑問を浮かべた。
自分の持分の仕事は昨日中に全て済ませているのだ。今までに客先からの連絡もないということは不具合もなかったということじゃないのか。
「だあほ。先輩のフォローは後輩としての義務だろう」
「……先輩がサボりすぎただけじゃないですか」
「頼むよ。これが終わらないと俺、飲み会に参加できねぇんだから」
「最後の最後までダサい人ですね」
「うっせ!」
飲み会に先輩が参加できないことは大した問題ではないけれど、お世話になっていたことは事実だ。
仕方ないから手伝ってやろう。
「定時までになんとしても終わらせますよ」
「当然だ!」
「威張るところではないです」
先輩を一瞥すると俺は片付けた机に向かい彼の仕事のフォロー準備へと入る。
最終日はゆっくりする予定だったんだけどな。仕方ない。
******
「うっしゃ~、何とか仕事も終わったし、たらふく飲んだぞー!」
「俺主賓なのに、先輩の方が楽しそうで何よりです」
現在時刻、二十二時三十分。
先輩の仕事も無事定時内に終わり、送別会も楽しく終わらせることが出来た。
誰よりも迷惑をかけた先輩が一番飲んで食べていたことは気に入らないが、先輩だから仕方ない。
そして今は、解散し二人だけになっていた。
「明日から、社長秘書として働くんだよな?」
「会…社長とはその約束でしたので」
「本当に、一年で資格までとって体制を整えたのは流石としか言えねぇな」
本当にこの一年は濃くどんなときよりも充実していたように思う。
それだけ、あの人の為に必死になっていたと考えると自分で笑えてくるけれど。
「で、これからどうする? 帰って明日の準備でもするか?」
「そうですね、変な疲れは残したくないですし」
「どいう意味だ!」
先輩と飲み歩けば間違いなく振り回され、気疲れが尋常じゃないのだ。
「ならさ、俺と遊び行こうよ!」
「誰が…って、たくに、会長!?」
そこにいたのは、へらへらと笑みを浮かべている音信不通状態に近かった親友と、会長その人で。
俺と先輩は、二人で顔を見合わせた。なぜに、このタッグ?
「噂をすればなんとやらって奴だな」
「噂? なになに、咲ちゃんなんか話してたの?」
「ああ、俺の安息が遠のいていく」
現状としては最悪。きらきらと輝いている親友に、ニヤニヤしている先輩、半ば呆れている会長を一纏めにするのは流石の俺も難しいです。
今日は帰ってゆっくり寝たかったのにな。
「ねぇ咲ちゃん」
「なんだよ」
「一年前の話、悪くなかったでしょ?」
「たくの口から聞いてなかったらな」
「意地悪!」
親友が笑顔で掘り返してきた話題に本音で答えて、ちょこっとだけ凹ませて置く。
これで俺の気が晴れたわけではないけれど、今があるのは多分多少なりともたくのおかげかな、何て心で呟いて。
「片岡社長、明日からお世話になります」
「会長が社長! 言い辛いから会長のまんまでいい?」
「呼び名くらい好きにしてくれ。仁千穂、宜しく頼むな」
「はっは~ん、一人蚊帳の外ってわけだな」
会長と親友との会話に入れない先輩は遠巻きに俺達を眺めている。
まぁ、プチ同窓会状態になっているんだ、仕方ないといえば仕方ない。
再会したのも何かの縁、俺達はこれから二時くらいまで飲み歩いたのはここだけの秘密だ。
そして、陽は昇り朝を迎えた。
真新しいスーツに身を包み、昨日と同じ会社でも違う部屋の前に立つ。
俺は深呼吸をして、部屋のドアを二回叩くとドアノブをゆっくり回した。
「失礼します。本日よりお世話になります、仁千穂咲希と申します」
「待ってたぜ、仁千穂」
「やほ! 新入りちゃん。宜しく頼むよ~」
そこにいたのは、会長と、秘書と呼ぶには格好がルーズ過ぎる男の人で。
神様、俺の選択は間違ってなかったんですよね?
それは、先行きが一気に不安になった、初勤務の日のことだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 6