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79 《晴》
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《晴》
ズグはもの問いたげに俺の方をじっと見てる。
「あー?」
「困ったないー、名前、名前……うーーん……」
出来たら幸せいっぱい来る名前にしたい!
ズグは頭抱えて困ってる俺を見て、何を思ったのかよしよしと頭を撫でてくれた。
「ふはっ…!
違うよ?頭痛い訳じゃない。
ズグは優しいなー、ありがと!」
俺が笑うと、ズグも笑顔になる。
愛しい仔猫。
じっと純粋な瞳で俺を見ている。
そうだ、名前。
純粋のスイ
これ良くね?
呼びやすいし?
……決めた!
些かこじつけっぽいけど、良い名前だし!
「うん!
スイにしよう!
今日からスイだよ!」
「……ぁー……?」
「今日からスイだよ?
俺は晴。
ズグはスイ。」
交互に指差して言う。
スイが恐る恐る俺を指指す。
「あー?」
「晴。晴だ。」
今度は自分を指指す。
「あー?」
「スイ。今日からスイ。」
スイが笑顔になる。
「あー?」
自分を指差してワクワクしながら何度も何度も聞く。
可愛い。
「スイだよ。君はスイ。
気に入った?」
コクコク頷く。
そうだよな。
ズグなんて名前付けられて、怒鳴られてばっかりじゃ嫌になるよな。
結局何処にも行けないまま日が暮れた。
夕食も食べ終えて、スイは俺にもたれてウトウトし出した。
安心し切った顔して。
その顔を見て胸が痛んだ。
もうすぐコーチクが開店する時間。
閉店後にはスイを返さなければならない。
でも返せるか?
あの酷い所へ?
虐待し怪我させるような客。
それを手当てもしない店主。
今度の事ではっきりわかった。
店主はスイがどうなろうと知ったこっちゃない。
全ては金。
ほんとは迷ってた。
今度のレンタルでは大人しく返して、信用を深めるって云うのもアリだと思ってた。
返さないって言う事はスイを結果的に攫う、って云う事。
スイの一生を引き受けるって事。
そこまでの勇気がない。
思い切れないとぐずぐずしてた。
でも、ろくに手当てしてない傷と先生の言葉が胸に突き刺さる。
良いのか?
本当に良いのか、って。
もう閉店の時間。
スイは俺の膝を枕にして、ぐっすりと眠ってる。
うーー…………
返さない。
返せる訳がない。
先輩の事、笑えない。
俺、こんなに莫迦だとは思わなかった。
大莫迦だ。
ほんとはもっとスマートに世渡り上手だと思ってた。
実際は、先が読めない中自分の感情のままに動くんだ。
スイは常識すら何にも知らない。
苦労するのはわかってる。
それに無国籍。
どう考えても、何莫迦な事してる?と自分でも思う。
でも、返せない。
うー!!
仕方ないじゃないか!
惚れちまったモノは!!!
大丈夫。
高岡の紹介だけど、奴はここの住所も知らない。
俺が何処に勤めてるかも知らない。
単にゲイの集まる店の常連としか知らないから大丈夫。
もう二度とコーチクとあの店には行かない事にすれば良いだけだ!
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