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契り 04
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暫くして、泣き疲れたのか、少年が静かに顔を上げた。涙に濡れた瞳を見つめると、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「おい、君……」
「え……?」
ふと気づいて、自分の手を彼のシャツに伸ばす。よく見ると所々ボタンが取れていて、大きく開いた胸元から彼の青白い肌が剥き出しになっていた。
――なんて痛ましい。余程のことがあったのだろう。
「こんな姿じゃ、家にも帰れないだろう。親御さんが心配するぞ」
彼は無言で視線を落とした。
寒さもあるが、こんなに衣服の乱れた状態で歩かせるわけにはいかない。
スーツのジャケットを脱ぎ、細い肩にそっと羽織らせる。
「濡れているが少しの間我慢してくれ。服を貸すから、うちに来なさい。すぐそこだから」
雨は思ったよりも早く上がり、濡れた肌に冷たい風を感じながら、夜の道を並んで歩いた。
「さすがに寒いな……大丈夫か?」
少年は小さく頷いた。先刻から一言も言葉を発していない。まだ俺のことを警戒しているのだろうか。
「そういえば名前を言っていなかったな……。一ノ瀬結月《いちのせゆづき》だ。君は?」
俯く横顔に話しかけると、彼は一瞬躊躇してから答えた。
「宮白《みやしろ》……亜矢」
「アヤ……か」
「女みたいでしょ。嫌いなんです……僕」
そう言って綺麗な顔を歪める。確かに女みたいな名だが。
「どうして?可愛いじゃないか。その顔によく似合う……」
「それがっ……」
「嫌なんだろ」
なるほど。女みたいな容姿に手伝って名前までも、とは男にとってはかなりのコンプレックスだな。
「アヤ」
もう一度その名前を呟くと、彼は目を見開いて俺を見つめたあと、やや怒った口調で言った。
「き……嫌いって言ったじゃないですかっ……!名前で呼んで欲しくないですっ……」
「良い名なのにそんなことを言うな。……名前は存在の証だろ。大切にしなさい」
名は、存在の証……――
愛する人につけてもらった“結月”という名。純粋にその名を呼ばれる時が来たなら、自分は決して一ノ瀬家の部品ではないと、思うことができるのだろうか。
「結月さん……」
透き通るようなその声にハッとして、彼を見た。
月明かりに照らされて、微かに、美しく、笑っていた――
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