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契り 05
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「……スーツ、濡らしちゃってごめんなさい」
隣を歩く亜矢が申し訳無さそうに言った。
「気にするな。俺が勝手にしたことだから」
「でも、ずいぶん高そうな生地だし、クリーニング代だけでも……」
肩にかけたジャケットに触れながら、沈んだ声で頑なに言うものだから、どうしたものかと考えあぐねる。まだ若いのに、なんて律儀な子なんだろう。
「じゃあ……うちに来て手伝いをしてくれないか?」
「えっ……」
「いや、君さえ良ければ、だが。学生の君から金銭を受け取るわけにはいかないし」
捻り出した妥協案を伝えると、亜矢は「そうさせてください」と頬を緩めた。
ようやく笑顔を見せた亜矢を見て心底ほっとしたが、それ以上に会う口実が出来たことが嬉しかった。
***
「結月様っ!!一体どこに行っていらしたのですかっ!?」
屋敷に着き玄関のドアを開けるなり、神霜が顔面蒼白で駆け寄ってきた。
「……悪い。ただの散歩だ」
「こんな時間にっ?会長がお怒りですよ……。あと、プレゼンの件でお話があると」
ああ、また今日も祖母の小言を聞かなければならないのか。はぁと溜息を漏らしていると、神霜がいきなり「ああっ!」と頓狂な声を上げた。
「どうされたんですか、こんなに濡れて!風邪を引かれますっ……直ぐにお風呂へ……あっ、今タオルを――」
狼狽したまま素早く奥に引っ込み、バスタオルを持って戻ってきた。
焦りのせいか、まるで水遊びをした後の子供を乾かすかのように、タオルでガシガシと体を拭かれる。いつも繊細な神霜らしかぬ対応だ。
されるがままになっていると、クスッ、と背後で小さく笑う声がした。子供扱いされているこの状況を亜矢に見られていると思うと、途端に気恥ずかしくなる。「もう大丈夫だ。客がいる」と声を掛けると、神霜はハッとした様子で手を止め、徐に後ろを覗いた。
「おや、この子は一体……」
「神霜。何でもいい、この子に服を渡して着替えさせてくれ。風呂へ案内も、頼む。俺はシャワー室を使うから」
そう言うと、神霜は目を丸くした後、何故か穏やかな笑みを浮かべた。
「かしこまりました。では、こちらへ……」
促されるまま戸惑いがちについていくその後姿に声をかける。
「亜矢、着替えたら神霜に家まで送ってもらいなさい。……来週の月曜日、うちで待っている」
亜矢はゆっくりと振り向いて、にこりと笑った。
何から何まで、亜矢に対する自分の言動に驚く。
俺はきっと、あの笑顔に救いを求めている――
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