アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
契り 07
-
屋敷の中に通される。前に此処に来たときには気にする余裕もなかったので、内部をちゃんと見るのは初めてだった。どこに目を遣っても、余白を残した空間に洗練されたデザインの家具や調度類が置かれていて、その生活感の無さに、さらに心が落ち着かない。
「お茶を淹れますね。レモンティーはお好きですか?」
「はい。あ、でも、お気になさらず……お客さんというわけでもないですし」
「いいえ、どのような理由であれ、結月様が初めて此処に連れてこられた方ですから。せめて今日だけでも。僭越ながら、私がお供させていただきます」
神霜さんはそう言って微笑んで、僕を大広間の一角に配されたソファ席へと促し、「少々お待ちくださいね」と部屋から出ていった。
“初めて”。先程聞いたその言葉に引っ掛かりを覚える。これまで誰も連れてきていないということだろうか。……友人も?
そういえば、結月さんはどこだろう……。
「神霜さん、結月さんはどちらにいらっしゃいますか?ご挨拶させていただきたいのですが」
ティーセットを持って戻ってきた神霜さんに訊ねる。
「今日は社屋の方に行かれています。商談などの外出がない時には、此処の仕事部屋でリモートワークされることが多いのですが」
「そうなんですね。ところで、結月さんは何のお仕事を?」
「一ノ瀬不動産のマーケティング本部で主に開発事業に携われておりますよ」
一ノ瀬不動産は、一ノ瀬グループの中核になっている不動産デベロッパー企業だ。もしかしなくても、結月さんって……。
「ああ、ご存知なかったのですね。結月様のお父様は、一ノ瀬グループの代表取締役社長です」
僕の表情を見て、神霜さんがそう教えてくれた。
一ノ瀬グループ。不動産、製薬、金融など幅広く事業を手掛けている大企業。メディアや街中で広告を見ない日はなく、都内にビルや商業施設をいくつも造っているので、その会社は当たり前のように知っていた。
この都心の一等地に邸宅を構えるなんて、よほどの名家だとは思っていたけれど。
そのような所、しかも会社ではなく屋敷で、僕に出来る仕事なんてあるのだろうか。不安になって神霜さんに訊ねると、ちょっとした雑務や掃除だと教えてもらい安心する。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 106