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契り 10
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《perspective:結月》
『来週の月曜日、うちで待っている』
そう亜矢に告げてから、約束の日までたった5日だというのに、ずっと心がそわそわと落ち着かなかった。
こんなにも誰かに会いたいと思うのは初めてで、この気持ちに戸惑った。
長い間、自分はこのまま独りでいいのだと、思っていたから。
当日、朝から夕方まで社屋で社内ミーティングと商談が続き、移動中もクライアントやチームメンバーからの着信が途絶えなかった。頭の中で次に生まれるタスクを想定しながら、電話の要件を捌いてゆく。久しぶりにキャパオーバーになりそうになったその時、大広間に居る亜矢の姿が目に入った。
少し緊張した面持ちで会釈される。一瞬で気が緩みそうになり、思わず視線を逸してしまった。
外資系デザイン会社の担当プロデューサーとの通話を終えたあと、波立つ心を鎮めるように深く呼吸をして、亜矢の元へ向かう。
改めて明るい場所で彼を見て、思わず目を見張った。
雪のように肌が白く、首も肩もほっそりとしていて、少し儚げな印象を受ける。肌の色に馴染むような色素の薄い茶色の髪は襟足まで伸びていて、サイドの髪を耳に掛けていた。長い睫毛を携えた大きな瞳や、ほんのりと紅い厚めの下唇が可愛らしい。
あの夜、痛ましく思うほど乱れた姿で、かつ全身濡れた状態だったが、瞬時に思った“綺麗だ”という形容は間違いではなかったと思うほど、端整な容姿だ。あわせて、屈託のない笑顔を惜しみなく向ける。
多くの人が見惚れてしまうだろうと思った瞬間、何故か嫉妬に似た感情が湧き上がり、そんな自分に驚いた。
亜矢が「僕にできることなら何でも言ってくださいね」と言うので、「笑っていてくれるだけで良い」とつい本音が口をついて出る。“俺だけに”と言ったら困ってしまうだろうか。いや、さすがに引かれるだろう。会って2日の、しかも同性の男に言われるのは。
表面上は冷静を装っていても、先刻から心の中は大騒動だ。7歳も年下の少年に、柄にもなく心を揺さぶられてしまうなんて、情けない。それでも、初めて感じるこの捉えどころのない感情は、不快なものでは無かった。
それから1ヶ月、亜矢は一週間に数日、学校帰りに屋敷に来て、雑務や掃除をした。
勉強で疲れているだろうにそんな素振りは見せず、いつも一所懸命な亜矢の姿が、とても愛おしく思えた。
亜矢にとっては、ここで働くことが濡らしたスーツの償いということになっている――正確に言えば、川に入ったのは俺の勝手な判断で雨にも降られているので、亜矢のせいではない――のだが、端からそんなことは関係なかった。
ただ亜矢との繋がりがなくなってしまうことを恐れて、未だにそれを口実にしている。
会うたびに、亜矢のいろんな表情が見たい、話が聞きたいと思うようになり、もしかすると、この感情は恋愛の類かもしれないと気づいた途端、それを抑え込むように蓋をする
俺は誰も愛してはいけない。
それはまるで呪いのように、心の奥底に有り続けた。
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