アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
契り 26
-
《perspective:結月》
家に着くと直ぐに、亜矢を風呂に入らせた。
『伝えなきゃいけないことがあるんです……』
車内でそう言った亜矢は、酷く落ち着いていて、それでもどこか、緊張した面持ちで。
――何を告げられるのだろう。
リビングのソファに深く腰掛け、心を鎮めようとするが、静かな室内が逆に冷静さを失わせる。
生まれて初めて、人を殴った。拳が焼けるように痛い。
俺は先刻自分がとった態度を、怯えた亜矢を、静寂の中で思い出していた。
暫くして、まだ少し髪を濡らした亜矢がリビングに入ってきた。
「ココア、飲むか?」
せめて気分を解せたらと、ミルクパンで温めていたココアをマグに注ぎ、テーブルに置くと、亜矢は小さく頷いて隣に座った。
それを一口飲み、ゆっくり目を伏せる。俺はその横顔を見つめて、言葉が発せられるのを待った。
「――結月さん。僕……」
亜矢が重々しく口を開く。
「僕、1年の時からずっと、同級生や先輩に“ああいうこと”をされていました」
スッと、滑り落ちるように伝えられた衝撃的な告白。
ただただ絶句する。
“ああいうこと”。先刻の思い出したくもない光景が、無情にも脳裏に蘇ってくる。あの男達への憤りが再び迫り上がってきて、血が滲むほど唇を噛み締めた。
「僕が初めて男の人を知ったのは中学生の時でした。相手は10歳年上の叔父で。僕はその人に憧れていたし、大好きでした。だから、何度求められても拒めなかった。
その人が居なくなった後、高校の先輩に無理矢理されました。でも、僕はその時……」
静かな声で語っていた亜矢はその先を言い淀み、膝に置いた小さな拳に力を入れた。
少し経って続けられた言葉は、あまりにも衝撃的なものだった。
「その時僕は、犯されても気持ちがいいとしか、感じなかったんです……!」
細い肩が小刻みに震えている。俯いた横顔から涙の雫がパラパラと宙に落ちるのが見えた。
「こんな自分が怖い。簡単に壊れてしまう自分が。僕はたぶん、酷くされないと満足できない……。結月さんに抱いてもらったら、きっともう自分が抑えられなくなって、幻滅させそうで、怖かったんです……。
こんな恥ずかしいカラダ、結月さんに見られたくなかったっ……」
「亜矢ッ……」
涙混じりの悲痛な声に胸が張り裂けそうになって、思わず亜矢の体を抱き締めた。
なんて馬鹿なんだ。今ようやく解るなんて。
最初から、気付くべきだった。
河川で出会ったあの夜の、俺に対する亜矢の怯えよう。発した言葉……。
『……こわ……い……。自分じゃなくなって……。そんな自分も怖くてっ……、嫌いで……。死のうと思った……っ――』
何が怖いのか、何がそうさせているのか、その時は解らなかった。けれども、あの叫ぶような声は、忘れてはいなかったはずだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
30 / 106