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偽り 04
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* * *
研究棟の中にある資料室で、俺は研究材料に使う資料を探していた。
そこは、年季の入った建築模型や、大量の図面が入った段ボールが所狭しと置かれていた。
数ある資料室の中で、この部屋はずいぶん長い間放置されていたようで、何処もかしこも埃っぽい。
書棚から分厚いファイルを引っ張り出し、使う資料を探す。
「はあ……」
無意識に何度も溜息をついている。宮白のあの表情が、ずっと頭から離れなかった。
調子が狂う。自分が誰かに囚われているなんて、ありえない。俺にはやるべきことがある。早く平常心を取り戻さなければ。
再び資料に目を落とした瞬間、ガチャン、と大きな音を立てていきなり資料室の扉が開かれ、誰かが飛び込んできた。
「……宮白っ!」
そちらのほうに目を遣るなり、思わず叫んだ。
床の上に倒れこみ、大きく肩で息をした宮白がいた。
「すみません……。ちょっと……此処に居させてください」
宮白はそう喘ぎ喘ぎ言いながら、今入ってきた扉のほうに視線を向けた。外を気にしているようだ。
先刻まで宮白のことを考えていた為か、当の本人と二人きりになっているこの状況に動揺を隠せない。
やっとの思いで、宮白のほうに目を向けるとギョッとした。
「どうしたんだ、その顔!」
頬が赤く腫れ上がっている。服も乱れていた。
「……ちょっと厄介な連中に捕まっちゃって。大丈夫です。気にしないでください」
掌で頬を撫でながら、何てことない顔でそう言うこいつに少し腹が立った。
「大丈夫なわけないだろう。何でそうやって強がるんだよ。……待ってろ、直ぐ冷やすもの持ってくるから」
「自分でやりますよ、沙雪さん」
「いいからそこで大人しくしてろ!」
急いで研究室に行き、冷蔵庫から持ってきた冷却ジェルをタオルに包む。
それを宮白の頬に押し当てると「いたっ……」と苦痛に顔を歪めた。
「傷はないようだから、腫れが引いたら顔には残らないと思う」
俺がそう言うと、明らかに安堵の表情を見せた。
「いつも、こうなのか……?」
乱れた服を直してやりながら、そう訊ねる。
指先が宮白の肌に触れて、小さく心臓が跳ねた。
「いいえ。今日の相手が手荒かっただけです……。あまりにも酷かったんで、逃げてきちゃいました」
俯いたまま、力なく宮白が笑った。
「辛いなら、もう止めればいいじゃないか。“そういうこと”……」
「……」
やはり、宮白の口から同意の言葉は出なかった。視線を落とした瞳はいくらか寂しそうに見えた。
いつも泰然としているけれど、今自分の目の前に居る宮白は……。
「……そのカオ」
「え……」
「その表情《かお》、俺の前では見せてもいいよ」
思わず宮白の柔らかな髪を撫でていた。
「いつも気を張ってるなんて、疲れるだろ」
「沙雪さん……」
大きな瞳に、俺が映る。
何とかして繋ぎとめておきたいのかもしれない。
ふわりふわりと、何処かに行ってしまいそうな宮白を、体じゃなく、別の何かで……。
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