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契り 03
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《perspective:結月》
俺はその夜、久しぶりに一人で屋敷の外へ出た。いつもは執事の神霜《かみしも》がいるが、今日はいない。無断で屋敷から出てきたからだ。
あそこにいると息が詰まる。祖母や父の顔色を伺い、与えられた仕事をこなす毎日。
外との接点を断ち切られ、屋敷や仕事関係の者以外との交流も無い。
それはまるで機械のようで、自分の存在価値が時々分からなくなる。
俺は一体何の為に生きているのだろう……?
ゆらゆら揺れる水面を見つめていると、バシャバシャと水音が聞こえてきた。
こんな時間に、誰かいるのか?
不審に思ってその音のする方へ目を走らせると、川の深淵の方へ向かう人影が見えた。
大きな水飛沫を立てて目の前から姿を消した瞬間、俺は思わず駆け出していた。
暗い水の中からその人間を引き上げる。間近で見た途端、綺麗だ、と率直に思った。暗闇に青白く浮かび上がる肌。大きな瞳が際立つ小さな顔。頬には濡れた長い髪が張り付いていて、華奢な体つきを見るまでは少女と見間違うほどの美しい少年だった。
先刻まで月が明るく照らしていた空が雲がかってゆくのを見て、早く河川から出なければと、彼の頭に手を置いて促した。
するとその手を叩かれたかと思うと、何かに怯えたように全身で拒絶される。
俺は思わず彼を抱き締めた。
声を押し殺すように紡がれる言葉に、「君は綺麗だ」と伝えることしかできなかった。
会って間もない彼を、何故か失いたくないと、本気で思ったのだ。
震える背中に手を添えて、泣き声を聞いていると、ぎゅっと胸を掴まれる想いがした。それは自分に似た、悲痛の叫びのようだったから。
大粒の雨が水面を打ちつけ始めたのに気づき、俺は引き摺るように少年を橋の下まで連れて行った。
彼はまだ俺の胸で縋るように泣いていた。こんなに感情を曝け出せることが羨ましく思えた。
俺が最後に泣いたのはいつだっただろうか。そういえば笑ったのはひどく久しぶりだ、と先刻の少年とのやり取りを思い出す。
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