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契り 11
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「結月さん、お茶をお持ちしました」
ノックの後、いつものように控えめな声が聞こえてきた。
亜矢は、俺の仕事部屋に茶を運ぶ用を任されていたようで、この時だけが唯一、彼と二人きりで過ごせる時間だった。
嬉しい思いが顔に出ぬよう必死に努めながら、亜矢を中に通す。
コーヒーの芳醇な香りが部屋を包み込んだ。
「コーヒー、今日は僕が淹れたんですよ。あっ、このお菓子手作りみたいで、レシピ教えてもらったんです。今度作って来るので、結月さん、絶対食べてくださいね!」
「亜矢、料理できるのか?そうは見えないが」
「ひどいなぁ。僕、小さい頃から家で料理してたので人並みにはできますよ」
少し拗ねたような表情が可愛くて、俺は小さく笑った。コーヒーを飲みながら、楽しそうに話す亜矢を眺めていると、日々の煩わしい彼是が一掃されていくようだった。
「あっ……ごめんなさいっ!また喋り過ぎました……。仕事に戻りますね」
亜矢は少し焦った様子でそう言って、一度お辞儀をしてからドアへと向かった。いつもこの瞬間が、いやに寂しい。
「亜矢」
思わずその後ろ姿に声をかける。
「どうかしましたか?」と、微笑んで振り返る亜矢に、咄嗟に思っていたことを口にした。
「もう少し、ここにいなさい」
亜矢は目を丸くして俺の方を向き、近づいた。
「え、今……なんて……」
明らかに動揺しているようで、足元にある資料の入った段ボール箱に気づいていない。
「亜矢!危なっ……」
咄嗟に叫ぶ。亜矢は危惧していた通り段ボール箱に躓いて床に倒れ込んでしまった。急いで彼の元に駆け寄って、ゆっくり体を抱き起こす。
「大丈夫か?」
「痛っ……大丈夫じゃないです!」
亜矢は半ベソ状態で足首を擦った。
「捻ってはいないか?」
「はい、ぶつけただけで……」
「まったく、そそっかしいな」
「だって結月さんがっ……」
目が合うと、腕の中でもがくように慌てだす。
「と……にかく!もう大丈夫ですから……あの、離してくださいっ……」
「服、握り締めて何言ってるんだよ」
「っ!あの……これはっ」
亜矢は顔を真っ赤にしてパッと手を離した。それを見て思わず、ふ、と口元が緩む。
目の前でさらりと揺れる髪。自然と自分の指がそれに触れた。
「……結月さん……?」
髪を梳くように撫でると、石鹸のような清潔感のある匂いがふわりと香った。じっと見つめる透き通るような榛色の瞳に唆されてしまう。
「……可愛い」
胸の高鳴りが煩くてどうしようもなく、赤くなった耳に唇を寄せた。
その瞬間、弾けたように体を押される。
「っ……からかわないでください!!」
亜矢はそのまま勢いよく部屋から出て行った。
「本当に、可愛いな……」
窓の外を見てひとつ息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
――どうしてこんなにも惹かれてしまうんだろう。
最初に出会ったときから、愛しい気持ちは遥かに増幅して、俺の心を掻き乱した。
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