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再会 05
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その日の夜は一睡も出来なかった。
翌日、僕は自室に閉じ籠もった。
椅子に座ってぼうっと窓の外を見ていると、急に激しい雨が窓ガラスを打ちつけ始めた。
ついさっきまで、あんなに良い天気だったのに。
遠くで雷鳴が聞こえて、僕は布団の中に潜り込んだ。
結局、逃げられなかった。それをしたところで、無駄だと解っていたから。
「助けて……結月さん」
結月さん。
やっぱり、貴方の名前を呼んでしまう。
あれから、何も変わっていないんだ。僕は……
「――亜矢」
遠くで僕の名前を呼ぶ声がする。
いつもそうだったな。
ギュッと抱き寄せて、温かい手で子供をあやすように優しく髪を撫でてくれて……。
「亜矢」
ハッとして目を開ける。
「っ!!」
「……起きたのか」
微睡みの中で感じていた温もりは、結月さんのものなんかじゃない。
もう二度と会いたくないと願った、その人。
「千尋兄《ちひろにい》……」
「久しぶりに日本に帰って来たというのに、迎えにも来てくれないなんて、酷いぞ。亜矢」
僕を包み込む、筋肉質の太い腕。
体が強張って動けない。一刻も早く、この人の傍から離れたいのに……。
「それにしても、4年ぶりか……」
節くれ立った大きな手が僕の髪を撫で、頬へと滑り落ちた。
「驚いた。こんなに綺麗になっているなんて」
指先で柔らかく頬に触れながら、眼鏡の奥の目を細くして、じっくりと僕を見る。そして、耳元に顔を近づけ、低く囁いた。
「――愉しみだ」
「っ……!!」
背中からパーカーの中に手が忍び込むのを感じて、僕は咄嗟に体を突き飛ばし、ベッドから降りて一心不乱に駆け出した。
「逃がさないから」
腕を引かれた瞬間、開きかけた扉を閉められてしまった。
右頬を手で覆われたかと思うと、強制的に振り向かされ、肩を壁に押し付けられる。直ぐに、噛み付くように唇が重ねられた。上下の唇を啄むように吸われたあと、反射的に開いた口の中に熱い舌が入ってくる。逃げてもあっという間に浚われ、軽く噛まれる。
乱暴なのに、口内の性感帯を探るようなキス。
「っ、ふ……んぅ……」
――このままじゃ、流される……!
どん、と胸を拳で叩くと、抱きすくめられ、深く舌を絡められる。腕の中でもがいてみても、さらに力が強く篭るだけだった。
「っは……」
唇が離れたと同時に、僕は顔を背けた。
悔しい。こんなにも容易く捕まってしまうなんて。
見たくない。声も、聞きたくない……。
顔を隠すように深く俯いていると、ぐいと顎を掴まれ上を向かせられる。
視線がぶつかる。
何もかも見透かすような、涼しげな切れ長の瞳……。
「言っただろ? 次また会うときは――」
耳元で告げられる言葉に、一瞬にしてグラリと目が眩む。
――そうだ。忘れていた。
この人に本気で求められたら、堕ちてしまう。
もう二度と、他の誰かを愛せなくなるまで。
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