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序章
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雪で覆われた山の小道を早足で進む男がいた。
紺色の軍服の上から灰色の外套を着て、頭には耳当て付きの黒い帽子を被っている。その帽子の下にある白い顔は彫刻かの如く美しく、やや目尻が上向きになっている両目の虹彩は、薄い青みがかった紫だ。
長い外套と、腰まで伸びた銀髪が風に靡(なび)く。
彼の名はニコライ・フォン・ヴィノクール。天使であり、天界軍の特務曹長だ。
任務遂行————そのために彼は天界から居たくもない人間界、この寒い地方の山奥に来ていた。
今回の任務は、成功できない可能性が高いと上司から言われた。危険だと思ったら直ぐに帰って来い、とのことだ。任務を断ることすら許可されたが、ニコライは任務を引き受けた。
ニコライ自身、任務の内容を聞いた時から危険は重々承知。しかし力ある天使としてのプライドが、断ることは憚(はばか)った。
そして任務遂行のための場所は、もう目の前にあった。山奥に立てられた一軒の家。煉瓦で作られたその家は、雪を被っていて見つけにくかった。
「ここ……ですね」
ニコライは確認するように自分の腰のホルスターを触った。そこに収まったリボルバータイプ、ダブルアクションの拳銃。弾はニコライがそれを握ったとき彼自身の神通力によって具現化され、装填される。
ここは天使の脅威であり天敵、悪魔が住む家。
————最強と言われる、一人の悪魔の家。
自分の神通力の気配を限界まで抑え、ドアに近づくニコライ。天使が近づくとその神通力の気配で悪魔は気づいてしまう。神通力の扱いが上手い天使は、その気配を抑えることができるのだ。
「…………っ」
ニコライは少し表情を歪めた。明白に家の中から感じられる魔力の気配。かなり強い力で、天使である彼には不快感を与える。
ホルスターから拳銃を抜く。シリンダーに空いた6つの穴が全て銃弾で埋まった。
ドアと壁の隙間を覗いてみると、鍵はかかっていないことがわかった。
腹を据えて、ニコライはドアノブを握り、回した。
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