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三章 5
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その時、レオの大きな手がホルスターに収まっていたファンタジアを抜いた。突然の彼の行動に驚いて顔を上げるニコライ。
「レ、レオ?!」
「お前、まだこんなもん使ってたのか?」
そう言いながら彼は、意味もなく六つ穴のあるシリンダーを外してクルクルと回した。神通力の扱いは得意でない彼に銃弾を具現化することはできない。
「そりゃ、お前でも六発以上の弾は同時に作れねぇか」
「返しなさい!」
レオの手から拳銃を奪うニコライ。その表情の険しさを、レオは怪訝に思う。
「に、ニーカ?」
「…………」
「んだよ、そんなにこれが大事か?」
含み笑いで言われたレオからの言葉。ニコライは顔を手元の銃に向けた状態で目を見開いた。
――そんなにコレが大切?
「止めてくださいっ!」
叫んだニコライ自身の手で、ファンタジアが床に払い落とされた。彼の横顔はレオの位置からは銀髪に隠れて見えない。
「……どう、した?」
レオはニコライの肩に手を伸ばしたが、触れる直前に彼にその手を叩かれた。
「私に触らないでください……」
震える声で紡がれたのは、今日初めての彼からの拒絶。レオはそれに唖然としてして手を下ろす。
急に彼がこんな言動をしたのが何故なのか、レオには全くわからない。何か悪魔ミハイルのことで思い出してしまったのだろうか。あの日に持っていたものを見せているのだから、それは十分に考えられる。
「すまん、少し無神経だったか」
そう言って、床に落ちたファンタジアを拾い上げるレオ。ニコライの手から荷物を取って全てバッグの中に仕舞う。
空になった掌を握りしめるニコライ。
「……ごめんなさい…………」
「何がだよ」
「全部……私が悪いんです」
顔を見せずにそう言うニコライに、深く息を吐いたレオ。こんなニコライは初めてで、対応に困ってしまう。
「無くしたもんはないんだな?」
取りあえずそう尋ねると、彼は首肯した。
レオはバッグを持って立ち上がる。
「それじゃあ、もう持っていくからな」
「……はい」
このままでいては、ニコライはことあるごとに悪魔とのことを思い出してしまう。暫し立ったまま逡巡して、レオ。
「なんか部屋から持ってきてほしいものあるか? 本とか。ここ、暇だろ」
「……ありません」
「そう、か……」
もしかしたらニコライは、暇潰しや娯楽というものを知らないのかも知れない。レオにはそう思えた。勉強、訓練、仕事――それ以外のものが彼の意識に侵入することなどあるのだろうか。そんなものがないから、尚更彼は崩れやすいのか。
レオは病室を出ようとニコライに背を向けた。
「待ってください」
彼に呼び止められ、振り返るレオ。
「ん?」
「それを何処に持っていくんですか?」
「上に報告してから指示に従う……、多分お前の部屋だろうな」
「……そうですか。お願いします」
「ああ」
そしてレオは今度こそ病室を出ていった。
ドアを閉めて、深く溜め息を吐く。今日になって幾度目の溜め息だろうか。
廊下を歩き始めるが、不安定なニコライの姿が頭から離れない。あの強い男が、悪魔に凌辱されてあんなに傷ついているなんて。こんなことになるなんて、思いもしなかった。
悪魔、ミハイルの了見が全くわからない。男と男が性交をするなんて、気持ちが悪いではないか。いや、気持ちが悪い?
レオは急に歩みを止めた。
気持ちが悪い? 無理矢理とはいえ、男の悪魔と性交をしたニコライは気持ちが悪いか? そう思ったとき、レオは悪魔に犯されているニコライを想像してしまった。
服を脱がされ、あの鍛えられた白い体を晒されるニコライ。やや女性的な整った顔を歪め、薄い青紫色の双眸を潤ませ、抵抗もできずに体を開かれるのだ。
想像して、何か甘い疼きのようなものが込み上げてくるようで、頭を振るレオ。
「何考えてんだ、俺」
思考を振り払うように早足で歩みを再開する。
一瞬ニコライに欲情してしまったかも知れないなんて、思いたくもなかった。
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