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獣の獲物に注ぐ熱い視線は、彼が顔を上げなくてもわかった。その証拠に、見る見る内に頬がじんわりと赤く染まっていく。呼吸が荒くなる。鼓動が…痛いくらい高鳴る。
「…イヤ。」
それとなく、小声で返す。ガードが万全ではないのはわかっていたけれど、頭がうまく働かない。宵宮は、照れている自分を獣に見られたいのか、それとも隠したいのか、わからなくて…茫然と俯き続けた。
そんな獲物に、獣も底意地悪くつけこんでくる。獲物の耳元に唇を押し当て、優しく囁く。
「…ねぇ、お願い。見せて。」
「…ダメ。」
無意識に、甘い問答になってしまう。ここは駅で、会社の近くで、知人から目撃されるかもしれないのに…。全てわかっていて獲物は、それでも彼を翻弄する獣のそばを離れられない。
「絶対かわいいの、わかっているから。ほら、見せて??」
「いや…。は、恥ずかしいもん…。」
「ねぇってば。」
繋いだ腕を振り子のように上下に揺らして、獣はウサギに酷くやんわりと強請る。
「オレにも見せらんないの??なぁ…。オレ、美月チャンの裸も知ってんのに。」
「ダメ…。ダメだから…っ。カッコ悪いよ…。」
「その分かわいいの知っているから。大丈夫だって。ねっ??顔上げてってば。」
二人で、互いに引かないとわかっているやり取りをしていると、彼らの前に電車が停まる。
「はい、残念でした。タイムアップ!!」
不意打ちだった。宵宮が電車に気を取られている内に、獣はさっと前方から覗き込んで、獲物の表情を見た。そして…獣は自身の鞄をすっと持ち上げ、獲物の唇にキスをした。
電車が停車してから、扉が開くまでの、ほんの短い時の間に。獲物は吃驚して、一瞬硬直してしまった。数秒して、我に返る。獣の大胆さに、壊れたラジオ並みに素っ頓狂な声が出た。
「あああッ、朝倉…!!?」
「…あ、美月チャン。もう電車来ちゃったね。…乗ろう。」
恋人繋ぎにした手を引っ張って、朝倉は優しく電車へとウサギを誘う。獲物は、衝撃過ぎてややへろへろした足取りながらも、彼の背中を追うように、電車へと乗り込んでいく…。
電車は朝倉が言っていた通り満員で、前進するのも一苦労だった。…進むのにも不自由するというのに、朝倉は三回も場所を転々とした。結局二人が落ち着いたのは、窓のある扉の前。右手にトイレがある場所だ。宵宮は扉前、窓に顔が映るところに立つよう獣に指示された。すぐ右にはトイレの壁。時間帯からか、周囲の人間は様々だ。制服姿のまだ幼い顔をした学生達、デート帰りか私服姿の若い男女、スーツ姿の男性や女性…。朝倉はそんな獲物の背後に佇んで、左の肩口から耳元に囁く。
「…これ、つけて。」
何やら背後が騒々しいと思ったら、朝倉がひょいと白いマスクを差し出してくる。
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