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「はっはっは!!お前もあの頃のまんまで、オーバーじゃん!!」
笑い飛ばしながら、宵宮も大川にハグを返した。…矢先。
ポーン♪と軽やかな音楽が鳴って、かたく抱擁する二人の前で鉄扉が開いた。向こうに現れた悪鬼の形相をした人物は…朝倉だった。
宵宮は他の男の腕の中で、先日告白した相手に挨拶していた。…尻切れトンボの声で、だが。
「ぉ、おはよう、朝倉…。」
朝倉はこれでもかと顔を顰め、腕組みし、地の底から轟くような声で問いかけてきた。
「…なぁ、コレどういうことか説明してくれるよな、美月チャン。」
「…ぅ…あ…、ハイ…。」
ガクガク頷く哀れな獲物だった。
数時間後。トイレに行って帰ってきた宵宮はデスクのそばに佇んで椅子を引きつつ、開いていたノートパソコンを覗き込んで…画面中央にどんと黄色い付箋が貼られているのを目撃した。付箋には赤ペンで『美月チャンの浮気者!!』と記されている。子供っぽい文章を見た途端、宵宮は苦虫を噛み潰した顔になり、即座にその付箋を思いっきり剥いだ。加えて、椅子にどすんと音を立てて派手に腰掛ける。
あの直後。宵宮は思い人に大川が同級生であること、ハグはふざけてやっていただけだときちんと弁解した。が、朝倉の返事は一言。
『ふぅ~ん??』
…のみだった。しかも、訝し気な目つきというイラナイおまけ付きだ。尚も誤解をとこうとしたが、朝倉は聞く耳持たずで、あっさりオフィスへと帰ってしまった。
それから、この付箋だ。いやらしいという他ない。
(…やっぱりアイツに告白するとか、早計だったんじゃね、僕。)
悶々と考えていた、矢先。
「ちょっと、宵宮君。」
声をかけてきたのは、三角のフレーム無しの眼鏡をした小柄な男だった。社員証には、天原とある。
宵宮美月の天敵は二人いる。一人は朝倉だが、もう一人はこの経理部の天原、あだ名は『キツネ』である。何かある度に『上司に言いつけますよ』と脅しまがいの文句を用いることから、“虎の威を借る狐のよう”と揶揄され、このあだ名に落ち着いている。…推測だが、多分本人あだ名の存在すらご存じない。
「この間の領収書、まだ提出してないでしょう。早く出して下さいよ。こっちの仕事が進まないんですよ。あなただけですよ、そうやって毎回毎回提出期限守らないの。アタシが上層部に言ってあげてもいいんですからね。」
口を開けば“催促”か“文句”である。宵宮は若干口角を引き攣らせつつ、ぎこちない微笑みを相手に向けながらも、必死にデスクの中を探し始める。
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