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【発端 side-S】
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【発端 side-S】
「………………あ、」
どうしよう、バレた。頭が真っ白になる。そのあと、全身が暑いのか寒いのか、よくわからなくなる。まずった。しくじった。
いくら滅多に人の来ない場所に住んでるからといって、堂々と玄関先で男とキスなんかするんじゃなかった。
僕と目が合った子供は、驚きのあまり硬直している。そりゃそうだ。まさか、身内が犯罪者だなんて思わないだろう。
浅はかな行動をしてしまった自分をなじる。人寂しさなんて長年我慢出来ていたはずなのに、どうしてこんなタイミングで許してしまったのか。
後悔は怒濤のように押し寄せて耳鳴りさえする。
でも、全部後の祭りだ。
声をかけようとした矢先、子供は、逃げるようにさっさと裏口のほうへ回ってしまう。
追いかけようとして、まだ先程の相手が僕を離してくれないのに気付いた。
なんだよ、もう。だいたい、本気で愛し合ってる二人でもないのに。
再びの口づけをせがまれて、仕方なく受け入れる。
……それだったら、よかった。
本当に心から愛している人なら、たとえ誰かに見つかってしまっても、なんの後ろめたさもなく打ち明けることが出来た。この苦しいほどの抱擁さえ喜びになり得た。
同性愛は死刑にもなりうる犯罪だ。夢見がちな僕は、愛のために死んでも構わないとさえ思っただろう。
でも、今、戯れを興じている相手はどうでもいい人だし、うっかり出会ってしまったから、こっそりやってみたかっただけで、こんなので死ねと言われたら、たまったもんじゃない。
あーあ。あの子に、なんて言い訳しよう。
こちらに気持ちがないことを分かって、相手は苦笑して離れる。
また来るとお決まりの挨拶を言う彼に、もう二度と会わないほうがいいかもねと返した。
気まずい沈黙のあと、不可思議な笑いがこみあげてきて、お互い見つめあう。
間違っているのは世の中だと、こんなにもはっきり分かるのに、その仕組みの中で生きていくしかない。
溜息をつくほどのことでもなくて、手を振って彼を送り出した。
さて、と。
家に入り、少年の部屋に向かう。扉をノックしても返事はなかったが、中にいるのはベッドの軋む音で分かった。
名前を呼び、また扉を軽く叩く。
ドアノブを回しても鍵がかかっていて、開かなかった。
説明させてくれと懇願しても、応えはなく、少し放っておくかと退散した。
小学生の賢さを、面倒に思う。もっと幼かったら、何にも理解しないでいてくれただろうに。
そのうち日が暮れて、お腹を空かせた彼がのそのそとやって来た。
食卓に皿を並べながら、切り出す。
「…………さっきのことなんだけど、」
「気持ち悪い」
あんまりにもはっきりと言われたので、むしろ気持ちはストンと落ち着いた。
ごめんね、と返す。他に言えることもなくて、気持ち悪いと言われたことだけが、何度も頭の中で繰り返された。
二人で暮らすのだから、いつまでも気まずいままではいられない。どうするのかと思っていたら、翌日にはいつもの彼に戻っていた。なかったことにするらしい。
それきり、この話をすることはなかった。
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