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「警察か?」
賭けていたら、背中に小型の銃を突きつけられた。ビビったら話にならないが、拳銃なんてお坊ちゃんは見たこともないかな。怯えるべき? 計算するよりも早く俺の顔は不愉快を示し後ろの男に言う。
「俺が労働階級に見えるか?」
「何しに来た」
「見ての通り暇潰しさ」
少額だが勝ったので嬉しい。グラスの酒を飲み干したら、すぐにウェイターが次を持ってきてくれた。彼にも同じものをとウィンクして、世間知らずの放蕩息子はわざわざ銃を持ってる男の顔を見る。自ら振り向いて腹を晒す。今撃たれても仕方ない大失態だ。だが、それでいい。いつも親に守られてるから負けたことがないのだ。自分が死ぬなんて考えたこともない阿呆なのだ。
「警察が何?」
「ジェフとは知り合いか?」
「ジェフリー・オバーズ? ここを見逃してくれてる黒幕? 興味ないな」
「あんたが密偵じゃないことを確認したい」
「それならジェフよりサムに聞いてくれ。あいつの紹介だ」
「オレがサムだよ」
沈黙。緊張の張りつめる一瞬が好きだ。デスクはこういうの嫌うらしい。でも俺は現場の温度感をだいじにしたい。
俺は笑う。自分では見えないこの顔が、人種性別問わず他人を魅了するのを俺は知ってる。そう造られたから。べつにやらしい意味じゃなく、子供がサッカー選手に憧れる程度の気持ちを相手に与えることをわかってて俺はこの顔を使う。
「…………なあ、サムって女だぜ」
サマリーなんてクソダサい名前をつけられた女が堅苦しく育てられて、ひねくれ、ダークサイドに堕ちて、悪徳署長になり裏カジノのボスをやり、薬も扱ってる。裏の世界じゃサマリーは絶対に自分のことをサムと呼ばせる。なんて話は関係者しか知らないから男も騙されて銃を下げる。酒が来たんで二人で乾杯だ。
一口飲んだところで、男がポケットからあるものを取り出した。白い粉薬。念のためだと、彼はそれを俺に使うよう命じる。当然、インカムの向こうで駄目だとマリアが言う。うるさいなあ、イライラするなよ。
ライトに当たると変にピンク色がかって見える粉は、一般的なものに見える。でも何が混ざってるか知れたもんじゃない。そのことを男に伝えると、奴は視線だけで俺を殺そうとするかのように睨んだ。睨まれましても。
「信用の問題だよ」
「うーん」
受け取って包装を破る。酒に溶かすと、すぐに見えなくなった。俺はまるで不純物が入っていれば溶けきらなくて残ると思ってるみたいに、グラスを照明にかざす。そんなことをしてもなんの意味もない。俺にしか聞こえない声が飲むなと口々に言う。幻聴かもしれない。デスクかもしれない。誰かがリンの名前を呼んで、止めろと命じるがそんなの無理に決まってる。リンは今電気工事のメンテナンスのふりして、この建物内の全然別の場所にいるから。
ドン、と床が揺れて、明かりがすべて消えた。衝撃は、下から突き上げるような感覚だった。さらに地下で何かの爆発? 突然の停電に、シンと静まり返ったフロアはまたすぐに騒がしくなる。緊急時の予備電源が作動したのか、一部の照明だけが道を案内するかのようにぼんやりオレンジ色を灯す。なんか、みんな大変だなあ。酒でも飲んで落ち着けばいいのに。
「……………」
こうやってさ。
男が驚いた顔で俺を見る。まさか俺が飲むなんて思ってもみなかったんだろう。渡しておいてそれはどうなんだ? 効き目が強かったらさすがに困るので、ほどほどにしておく。薬を飲んで困るのは女を抱きたくなることだ。俺はもう男の話を聞かずに女を探す。今日はもう帰ろっか、ってなってる子達を引き留めて楽しませる。なんだかふわふわしてきた。いつからここは部屋が回転するようになったんだっけ? 俺を回収して今夜は引き上げろと誰かが誰かに命じる。うるさいよ、もう。勝手に頭のなかで喋らないでくれ。続けさせろとヘヴンの声がする。でもそれはヘヴンじゃなくて長官だったかもしれない。星形の星が目の前に降り注いで視界を邪魔する。女の首筋に噛みついて吸う。リンがしてくれないキスを彼女らはしてくれる。気持ちいいなあ。楽しいなあ。虚しいなあ。
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