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◇13
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◇13
リンが何を飲まされたのか、具体的に名前は思いつかないけど、だいたいどういう類のものかは、検討がつく。可哀想に。苦しいよね。助けてあげたいけど、普段とはうってかわって積極的なリンに、おれは少しビビってる。面白いから眺めているふりをしてたら、怒られた。やんなきゃ駄目ですかね。怖いなあ。
自分がリンを追っかけ回すのはいいけど、むこうから来られると困る。だってそれじゃ、同じ気持ちになっちゃうじゃないですか。常に供給過剰な一方通行でありたい。苦手だ、こういうの。仕事柄、女性に誘われたりその誘いに乗ったりはあるけど、あれはあくまでも仕事だから出来ることで、本当ならしたくない。他人に触るのは怖い。だから、逃げてくれないと困る。
可哀想なほど、わけがわからなくなっちゃってるリンは、またおれにはわからない言葉で散々喘ぐ。拒絶の叫びではありませんようにと、思うより他ない。お願いだからそんなに大きな声を出さないで。泣いてるみたいな声を出さないで。楽しめよとロッコィが言うけど、マーキュリーがこんなにうるさいんじゃチャーリーも起きてしまう。駄目だ駄目だ駄目だ。お前ら全員いなくなれ。うるさい。
もともと人口の少ない村だった。父は戦死らしい。とても立派な人だったと母は誇らしげに語った。けれど、絶対に名誉の死とは言わなかった。パパは国に殺されたのよ。男の子は戦争に行かなくてはならないから、あなたは女の子として生きなさいね。オレンジ色の靴。レースの髪飾り。お人形さん。甘いお菓子。貧しくも幸せな日々。
爆撃。
地面が地震のように揺れるたびに、大勢の人が死んだことを悟った。遠くからやってくる風は、悲鳴の残響を孕んでいた。
家の地下に隠れていたのに、親子はあっさり敵兵に見つかった。外に引きずり出されて、死を覚悟した。俺が女の子の格好をしていたから、母親と並べて輪姦するつもりだったのだろう。俺は足首を掴まれて、簡単にひっくり返された。あんなに恐怖を感じたことは今まで一度もなかった。大きな怪物に、簡単に弄ばれる命。俺が男だと気付いたから、取り囲んでいた男達は嗤って、あるいは気味悪がって、母親を犯すよう俺に命じた。
まあ、よくある話だ。
そのときの俺は子供で、性の知識なんか微塵もなくて、ただただ恐怖に支配されていた。やらなければ母親を殺す。やらなければお前を殺す。死ぬよりマシな行為だろ。言う通りにしていれば命だけは助けてやる。生きるって最重要だろ?
俺は母親の命を救いたかった。どんなに酷い目に遭っても生きていてほしかった。こんなところで死んでほしくなかった。俺も死にたくなかった。もしかしたら死んだ方がマシなのではとためらう俺を、敵は許してはくれなかった。逃げようとしても逃げられなかった。銃を持ったたくさんの大人に囲まれて、俺の身体は俺のものじゃなくなった。あんなに優しかった母が鬼の形相で俺を睨み、叫び、呪い、狂った。だから、もう殺すことにした。俺はずっと選択を間違え続けて、きっと一番残酷な結果を招いた。気付いたら川に捨てられていた。熊が俺の顔を舐めていた。食われると思って飛び起きた。どこからそんな力が出てくるのか、俺は絶叫した。熊はさっさと森へ逃げていった。どうして? この期に及んで、俺はまだ生きていたいのか? 俺ってなんだっけ。この思考する肉の塊はなんだっけ。
誰かが爆笑していた。それは俺だった。俺じゃなかった。でもこの喉だった。笑いはなかなか止まらずに、しばらく音を立てていた。始まったときと同じようにいきなりピタリとやんだ。なんにも楽しくない。歩き出さねば。そのとき、まだ彼らには名前はなかった。森のなかをさ迷っているうちに、彼らは名乗り始めた。マーキュリー。ヘヴン。俺はときどき俺じゃなくなるのが、この上なく幸せだった。気が休まった。安心出来た。つらいことは彼らに任せた。年上の彼らは俺を守ってくれた。楽しいことは彼らと共有した。そのうち、他にも友達が出来た。俺の頭のなかにしかいなかったけど、生きるって苦しいから、つらいから、一人じゃ無理なんだ。みんながいてよかった。一人じゃ頑張れなかった。
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