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4月7日④
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ねぇ、と返事を求められても、俺は何も言えなかった。
「気になっちゃうんでしょ?みんな、僕の腕ばっか見てさ」
なんとなく気まずくなった俺の提案で、廊下に出た後、浅野はぼやいた。
自嘲的な笑みもうっすら浮かべて。
俺はどこに焦点を合わせればいいのかわからず、瞬きを繰り返して、自分でもわかるくらい不審な感じだ。
「そ、そりゃあ…気になるんじゃない?」
うわ、今の発言、最低じゃね、俺。
浅野の目は気にしてほしくない、と言っているのに。
「……傷ついた人を憐れむのが好きなのは、生まれ持った人の性(さが)だから仕方ないのかな」
浅野の発する一文字一文字すら俺の心に突き刺さっていく。
浅野は続ける。
「…深山くんは傷がある恋人って嫌?」
「…ぇ、そ、そんなことない…と思う。その…傷があるからってだけで嫌にはならない。…多分」
「……そう。いい人だね」
「…、」
いや、俺は最低だよ、と否定しようとして、止まった。
俯く浅野の暗い水底のような、終わりのない暗闇のような目を見てしまったから。
思わず鳥肌が立った。
これは本当に生きている人の目か。
浅野はゆっくり顔を上げる。
その虚ろな目が俺を映す。
口が開く。なんて言うか悩むように一拍ほど間を置いて、話し出す。
「できればこんな言い方はしたくないんだけど…。…………深山くんは……裏切らないでね」
浅野が言い終わるとほぼ同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが廊下に鳴り響いた。
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