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4 路地裏の話
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路地裏の話
「……ん?」
友人の仕事を手伝った帰り道。家までの近道だと路地裏を歩いてたときに見つけた仔猫の集団。といっても、四匹くらいだけど。白、黒、そして白黒が二匹。同じ親だろうな、うん、かわいい。
俺は仔猫に近付いていく。逃げる様子はない。なんなら、近寄ってきた。
「かわいいやつらめ」
建物の壁に背中を預けて座り込む。にゃ~にゃ~鳴きながら、すり寄ってくる姿は癒ししかない。白いのと黒いのは、ズボンをよじ登り膝の上で鳴いている。
めっちゃご褒美じゃん。気乗りはまったくしてなかったけど、手伝って良かったあの仕事。こいつらに会えたからすべてよし。
もふもふしたやつらをひたすら撫でていると、その癒し効果で襲ってくるのは睡魔だ。どこでも寝れる、それが俺の特技。
「すぐ帰るっていったけど、まぁいっか」
同居人へ帰宅することは伝えてたけど、このもふもふと睡魔に抗うのは勿体ない。うつらうつらの夢心地に気付いているのかいないのか、仔猫たちも逃げる様子はない。俺はそのまま右手にじゃれていた白黒の仔猫を抱き抱えると夢の世界へ旅立つことにしたのだ。
ーーとても嫌な予感がする。
僕は背筋に感じた不穏な気配に顔を歪めて息を吐いた。
同居人から帰宅すると連絡を受けたのは三十分前。出先から考えても既に帰ってもおかしくない時間なのに、彼はここにいない。それはつまり、なにを指すのか。
「絶対に、どっかで寝てるだろ」
同居人はとにかく寝ることが好きだ。場所は問わない、眠くなったら寝る。寝れそうな場所なら寝る。そういう奴なのだ。
出会ってから今までに、どれだけその事で苦労したと思ってる。そもそも、本人が一番体験してるはずなのに、なぜ、帰宅してから寝ないのか。
「勘弁してよ……」
いっそ自宅に閉じ込めてしまいたいが、そうはいかない。引きこもりの彼は喜ぶかもしれないけど、周りは許さないだろう。
頭を抱えている間にも戸締まりを確認して部屋の鍵を持つ。彼が帰りそうなルートは予想できている。迎えに行くのが一番の最善策。
僕は見つけた頃にはきっと、ろくでもない展開になってる同居人ーーもとい恋人を迎えに行くため、自宅を飛び出すのだった。
「……ぁー、にゃあにゃあーー」
「こいつ、金目のモノ持ってなさそうですよ兄貴」
仔猫の尋常じゃない鳴き声と俺の服を漁る感触に、落ちていた意識が浮上していく。
「……だれ」
「兄貴、コイツ起きやした」
目を開けるとそこにいたのは、頭の悪そうな顔したソリコミ野郎。そして、背後にはツーブロックをセンター分けした兄貴と呼ばれた男。
……人がせっかく寝てたのに、めんどくさいなぁ。
そのまま男たちに目を見据えて、動きを見る。
「あっれー、意外とかわいい顔してんじゃん?」
「兄貴、こいつ男ですよ」
ツーブロックの男がニタニタ笑いながら近寄ってくる。気持ちわる、ソリコミを見習え、俺は男なんだよ。
「かんけーねぇって。いけるだろ」
いけねーよ。俺はお前とどうこうなるつもりはないっての。
どうやって、この場を去ろうか考えていたときだった。
「さっきから、にゃーにゃーうっせーなこの猫」
「は?」
ツーブロックが鳴いていた仔猫たちを蹴ったのだ。しかし、仔猫の反射神経が良かったため、その被害を受けた子は一匹もいない。
良かった。良かったけど、これは許されない。
「なぁ、うちの子になにやってんの?」
「なに、ーーっ!」
俺はとりあえず目の前にいたソリコミ野郎の顔面を右手で殴った。握り拳も作ったし、正面から決めたからいっときは起き上がれないだろう。
そして、俺に登っていた仔猫を下ろしてのそりと立ち上がる。本命はあれじゃない、目の前で震えている男なんだ。
「な、なんだよお前……」
「それはこっちの台詞。勝手に絡んできて怯えてるのはそっちだろ」
倒れた仲間を置いて逃げようと背を向けた男の左肩を左手で咄嗟に掴み、勢いよく振り向かせる。こいつにも、顔面右ストレートを放つに決まってるだろ。
男は振り向いた反動で、俺の拳が余計に入り綺麗に宙を舞い倒れた。
喧嘩売る相手、ちゃんと考えろよ。バーーカ。
俺は倒れた二人へ満足げに鼻を鳴らして、足元にいる仔猫へ視線を移す。
しゃがんで手を差し出せば、変わらずじゃれてくるこいつら、本当にかわいすぎる。
「……君はっ、なにをやってるのかな?」
「あっ」
聞きなれた声がして振り向くと、そこには顔に影を落として黒い笑みを浮かべた同居人。
だから、俺は素直に告げた。
「猫! かわいくない? 連れて帰ろうぜー」
一番のお気に入り、白黒の仔猫を両手で抱えて彼に見せる。怒られるかなー、今住んでる家、もとはこいつが住んでた場所だもんなー。
「そうだね、猫も君もかわいいよ。まとめて連れて帰るけど、帰っていいけども!」
「マジで? やった、ありがとなー。よかったなー、お前らまとめてうちの子よ?」
違うそうじゃない、そうじゃないんだと、同居人が遠い目をしているが、俺は無視する。今大事なのはこの仔猫なのだ。四匹を横一列に並べて、猫と地面の間に腕を入れる。二匹ずつ持てそうな位置まで入れたら抱えてあげると。
「どうよ、もふもふ! 今日から一緒に寝るー」
落ちないように腕と胸でしっかり挟んだこいつらを同居人へ見せびらかせて、にっこり笑う。彼も諦めたようで、はぁーっと息を吐いて俺の頭をくしゃっと撫でてきた。
「……明日、この子達の必要なものを買いにいかないといけないね」
「名前、なんにしようかなー」
四匹の仔猫を抱えて、隣には同居人。倒した奴らは置いていく、当然だろ。
俺はやっと帰路に着くのだった。
ちなみに、帰宅後同居人からネチネチ言われたのはまた別の話である。
でも、これだけは言わしてよ。ちゃんと手加減はした。俺左利き、でも、右で殴った。優しすぎる手加減だよな?
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