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rev .28
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瞼が重くて目が開けられない。こんなことがいつかもあったなと思いながら、必死で目を開けようとすれば、誰かの手が頭を撫でてくれた。
「まだ寝てていいよ」
愛する人の優しい声が耳に飛び込んできて、大悟の意識は覚醒する。ゆっくりと目を開け放てば、隣にKがいて、大悟の頭を撫でていた。
「おはよ、K。今、何時?」
「おはよ、ハニー。午前六時過ぎかな。さっきも言ったけど、まだ寝てていいんだよ」
バスルームだけでは終わらず、大悟はベッドでも泣きじゃくっていたが、そのまま眠ってしまったようである。
「大丈夫。目が覚めたから起きるよ」
そっかと言うと、Kは大悟の右頬にチュッとキスをし、先に起き上がる。いつから起きていたのか、Tシャツにジーンズ姿だった。
「ところでK、体は大丈夫なの?」
色々あって忘れそうになっていたが、昨夜Kは事件の犯人に薬を打たれた。検査結果がわかるまでは、おとなしくしているようにと医師の池田から言われていたのだ。
「うん、平気だよ」
大丈夫という言葉を信じたいけれど、本人に自覚がないだけという可能性もある。起き上がった大悟は、不安を隠し切れずKをじっと見つめる。
「そんなに心配しなくても、本当に大丈夫だから。何より俺はエーデルシュタインの人間だからね」
よしよしとKに頭を撫でられる。柔らかい笑みを浮かべる彼は、まっすぐ大悟を見つめていた。
「薬を打った奴に言われたんだよ。これでエーデルシュタインのコードネームになれるぞって。知らないのも無理はないけどさ、俺はそいつらよりずっと以前から組織の人間なのにね」
「でも!?」
「ハニーを怖がらせるから言ってなかったけど、組織の人間になって、色んな薬を打たれた。副作用か何かで命を落とした人間もたくさん見てきた。良くも悪くも俺は普通の体じゃない。あまり痛みを感じないのも、その辺が関係してるのかなって思ってる」
秘密主義のKが打ち明けてくれたのは嬉しかったけれど、やはり壮絶なものだった。何も言えなくなった大悟は深く俯いた。Kはポンポンと頭を叩いた後、こんな話をした。
「そんなに落ち込まないで。組織の人間だったことがプラスに働いて、俺は無事でいられたのかもしれない。実は昨日のドクターから呼び出しくらってさ、これから行こうかなと思ってたとこ」
「俺も一緒に行くよ。着替えるからちょっとだけ待って」
「オーケー、オーケー。待ってる間、レイとマキに連絡入れるわ」
過去は変えられないけれど、未来が全てマイナスになるわけではない。あの忌まわしい過去があったからこそ、大悟はKと出会えたのだから。
***
「朝早くに呼び出して悪かったな」
モグリの医者だけあって、池田の診療所はホテルから程近い繁華街の古ぼけたビルの三階にあった。看板も何もなく、表札は別の会社の名前になっていた。
「先生、Kの具合はどうなんですか!?」
何よりKのことが気になり、大悟は問いかける。
「その前に、医師として聞くけどさ、昨夜はセックスしてないよね?」
質問を質問で返された。ストレートに聞かれ、大悟は顔を赤らめたが、Kは真顔でしてねえよと答えた。
「なるほど。自制も聞いてるし、正常って感じだな」
池田はそう呟いて、腕組みをした。白衣等は着ておらずジャケットにコットンパンツというラフな服装である。
「なんだそれ、人を獣扱いするなよな」
Kは不満を露にする。
「そうなる可能性があるから聞いたまでだ。おまえの血液から検出された薬品、ヤバいやつだぞ」
すぐさまKと顔を見合わせる大悟。一呼吸置いた後、池田の話は続いた。
「アルツハイマー病の初期の治療薬として承認されている新薬がある。それに限りなく近い成分だな。アルツハイマー病のことはわかるか?」
「脳の病気だということはわかります」
ネットで検索すればわからなくもないが、正直に答えることにする。現時点での大悟の知識はこの程度だったから。
「アルツハイマー病とは、アミロイドβというたんぱく質が脳の神経細胞の外側に蓄積してかたまり、神経細胞を壊すことで認知機能に障害が出る病気だ。その新薬は、かたまりになる前段階のアミロイドβを除去する働きを持つ画期的な治療薬なんだよ」
「その薬の成分が、Kの血液から検出されたということですよね?」
難しい話ということもあってか、Kはその場で腕を組み、考え込んでいた。
「最初に言ったよね、限りなく近いものだって。似てるけど違うんだ。未承認の新薬かあるいは治験段階でお蔵入りしたか。たまたまシラサカに反応しなかっただけで、他の人間が接種すれば、どんな反応を示すかわからない未知のものだよ」
大悟の脳裏に、昨夜の田中の言葉が蘇る。
(脳疾患の治療薬開発で劇的な効果をあげる新薬が生み出された。だが治験段階で重大な欠陥が認められ、中止になった。治験者のひとりが開発に携わった人間を全員抹殺し、薬を持って逃亡したからだ)
(一部の人間は暴力衝動が異常に高まる傾向が見られる。他にどんな症状が出ているのか、分析している最中だよ)
Kが言ってたように、エーデルシュタインの人間だったから大丈夫だったんだ。
Kが無事であったことに安堵したけれど、疑問は残る。そんな危険な薬が流出したことを、なぜ田中は知っていたのだろう。秘密裏に捜査していることも気になった。
「この話、俺達以外の人間にも話したか? 他に知ってる奴はいるか!?」
Kが顔色を変えて池田に詰め寄る。
「おまえの血液を調べた臨床検査技師ぐらいだな。勿論名前は伏せてあるが……」
「そいつのところに連れていけ、今すぐにだ!」
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