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仲良し兄弟
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飯を食べて、風呂に入って、申し訳程度に勉強も終わらせて、あとは寝るだけ。
でもまだ眠くはない。そんな時に部屋に来た弟の春斗を巻き込んで格闘ゲームをしていた。
「あー、ちょっ、待っ、その技は駄目だって!」
コントローラーのボタンを手当たり次第にガチャガチャ鳴らして抵抗を試みるも空しく俺が操作していたキャラは天高く蹴り飛ばされ、春斗が操作していたキャラが掲げている剣にくし刺しにされた。
ああ、ついにゲームにも勝てなくなってしまった。
他に何か負けてないことってあったっけ、と考えながらコントローラーを放り投げ、座っていたベッドにそのまま寝転がる。
この弟、春斗は俺の真似事がお好きなようで。俺に引っ付いて習い事を始めては俺より優秀な成績を収めて得意になっていた。
小さいころは素直で可愛くて、秋兄ちゃん秋兄ちゃんと俺の後ろをヒヨコみたいについてきていたのに。いつの間にかこんなにも大きくなって。
成長というのは嬉しく時に怖いものである。
なんて感慨深く成長を噛み締めているというのに春斗ときたら「秋にぃ、弱くなった?」なんて生意気にも俺を煽りやがる。
ほんと、可愛くなくなったな、こいつ。
最後の砦である身長も抜かされたら嫌いになりそう。
いや、諦めるのはまだ早い。
さっきのはまぐれだ、と諦めの悪い根性がひょっこり顔を出し、起き上がって春斗に泣きの一回を頼んでいると枕元に置いてあったスマホが着信を知らせてくれた。
手を伸ばして取ったスマホの画面には女友達の名前とアイコンが表示されている。
春斗に断って通話を開始するとそのままスマホの向こうに話しかけた。
「どうした、こんな時間に」
『んー、秋久、今なにしてんのかなーと思って』
「弟とゲームしてた。香織は?」
『秋久に電話しようかどうか悩んでた』
「なんだよそれ。いつでもしてきていいって言ったろ。寝てたらさすがに出られねーけど」
そうして通話を続けているとテレビから痛そうな効果音が聞こえてきてそっちに目を向ける。
あろうことか春斗は勝手にゲームを始めて棒立ちの俺を一方的にぼこぼこにしていた。
「ずるいぞ春斗!」
「もう一回って言ったのは秋にぃだろ」
「だからって勝手に始めるやつがあるか! そんなことする奴はこうしてやる……!」
素早く春斗の背後に回り込んで足で腕ごと体を締め付け、脇に手を突っ込んだ。
抜け出そうと藻掻く春斗に情けもかけずに「覚悟!」とくすぐり攻撃を開始する。
「あははっ! っ、く、ふっ、ちょ、はなせっ、んふふっ」
「まいったか!?」
「まいった! まいった、からぁっ、ぶふっ、ごめっ、はな、ひ、てぇっ」
「離さん!」
それから数秒くすぐり攻撃を続け、春斗の口からは笑い声すら出なくなった。
もうそろそろ勘弁してやるか、と脇から手を抜き、足の力も抜く。
俺から逃げ出した春斗はベッドから降りて床に崩れ落ち、肩を大きく上下して呼吸を整える。それが少し収まってきたかと思えば勢いよく立ち上がり、「トイレ行ってくる!」と吐き捨てて部屋を出て行った。顔を真っ赤にして。
可愛いところもまだまだあるんだなぁ、なんて呑気に考えていると微かに俺を呼ぶ声が聞こえてきて、スマホの存在を思い出した。
騒動で遠のいたスマホを慌てて持ち上げ耳にあてがう。
「ごめんごめん」
『弟と仲良しなんだね』
怒ってないかとひやひやしたけど開口一番に笑みを含ませそう言ってくれたから安心して「それなりにな」と答えた。
「香織も弟がいたよな? そっちはどうなんだよ」
『必要最低限の会話……ううん、会話しないで済むならそのほうがいいくらいに仲悪い』
「あはは」
途端に冷たい口調になるもんだから乾いた笑いしか出てこなかった。
でも、そうか、高校生にもなって一緒にゲームしてくれる弟なんて希少だよな。そう考えると生意気要素が少し強くなったから可愛くなく感じるだけで、春斗の優しい所は昔から変わってないんだろうな。
しょうがない。あいつが一緒に遊んでくれなくなるまでは生意気な所も可愛がってやろう。
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