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女神の前髪に手を伸ばす
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チャイムが鳴り終わり、ざわついていた校内がしんと静まり返る。そこで鳴る足音は小さくてもよく耳に響いた。
まさか春斗が追ってきたのかと強張った体は、香織の顔を見た瞬間に弛緩した。
「秋久、大丈夫?」
「あ、ああ、忘れ物は見つかったよ」
取り繕うもそれは無意味な行為で、すべてをお見通しの香織は椅子を二つ並べるとそのうちの一つに腰かけて隣の椅子をトントンと叩いた。
素直にそこへ腰を下ろせば、膝の上に置いた手に香織の手が重なった。
「さっきの、弟君でしょ? 喧嘩した?」
「いや、してねーけど」
「そう。じゃあ、喧嘩じゃなくても何かあった?」
「別に、何も……ない」
言えない。弟とセックスしてるだなんて。そこに愛はなくて、でも俺のほうが弟を好きになってしまっただなんて、言えるわけがない。
香織は俺の拒絶ともとれる答えに大きく息を吸うと俺の手を持ち上げて両手で優しく包み込んだ。
「ねえ、私じゃ相談相手にもならない?」
綺麗な黒い瞳の中に自分の顔が映る。
「秋久が好きなの。だから力になりたいの」
俺に赤く色づいた顔をまっすぐ向けて、香織が言った。
どうしたって俺の気持ちが叶うことはない。だったらこの気持ちを隠して香織と付き合ってしまおうか。そんな最低な考えが浮かぶ。
「お、れも、香織が好きだよ」
最低な俺の最低な返事に、香織は笑みを浮かべつつも大きな目から一粒の涙を零した。
直後にパタパタと遠ざかっていく足音が聞こえたから、俺と違って本当に忘れ物を取りに来た人がいたなら悪いことをしたな、とどこか冷静に物事を考えていた。
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