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3.もう一人いる
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「最近さあ……誰かにつけられてるような気がするんだよね」
「えっっ」
漫画だったら残像みたいにブレているところだ。
口では「それは怖いね、なんでそう思ったの?」などと一般的な返しを試みてはいるが、頭の中では「なんでバレたんだ」とパニックが起こっている。脳がフル回転で自分のミスや不用意な行動を振り返るが思い当たることはない。
彼を怖がらせないため、痕跡を残さないことを心がけてきたはず。それなのになぜ……。
と思っていたが、兎洞の答えは意外なものだった。
「なんかさ、タバコの匂いがするんだよ」
タバコ?
その一言で冷や汗が止まった。
ストーキングの邪魔になるものは摂らない。何より、真っ先にあの吸い殻が思い浮かんだ。
(やっぱりあの吸い殻はストーカーのものだったのか!? 許せんっ……こちとら一年もひっそり見守ってるのに)
こっちが先にストーカーしてたんだぞ、と謎の怒りが湧く。痕跡をわざわざ残して標的に気づかれたい意図が透けて見えるのも気に入らない。
「えーっなにそれ怖! 兎洞くん、私が一緒に帰ってあげようか?」
「その前に警察行かなきゃだよ! そのあと私と一緒に帰ろ?」
兎洞狙いの女の子たちが話に割り込んできた。普通はタバコの匂いがする程度で、事態を重く見る奴はいない。善意ではあるだろうが、待鳥とは危機感が違うのだ。
兎洞は冷静に「いや女の子にそんな危ないことさせられないだろ」と返している。ドライだけど優しいところが素敵だ……じゃなくて。
兎洞が待鳥に物言いたげな視線をよこした。それにピンとくる。
(この言いよう、兎洞くんは本気で危険を感じてるんだ! 尚更女の子に任せるわけにはいかない)
用心棒を引き受けてボロが出たら、ストーカーだとバレるリスクはあるが、兎洞の安全には代えられない。
これでも身長は百八十あるし、毎日のランニングと筋トレで鍛えたので体力も自信がある。何より一年間のストーキングで培ってきた実績から言っても、待鳥が最適なはずだ。
バレるリスクと、兎洞の安全を天秤にかけて、待鳥はようやく決心した。
「もも、もしよかったら、僕が一緒に帰るよ」
「はあ? 待鳥があ〜〜!?」
「オメーかっこいいけどキモいんだよ!」
女子からは散々な言われようだ。でもめげない。
「あー、マジで? 忙しくない?」
兎洞は遠慮がちだが迷惑そうな表情ではなかった。ここぞとばかりに暇をアピールする。
「ないない! すごく暇!」
「ほんと? それじゃ、お願いしよっかな」
兎洞の表情がふっとゆるむ。男とはいえ、正体のわからない何者かにつきまとわれるのは不安だろう。頼りなげな顔と嬉しそうな顔を同時に拝めた喜びに、待鳥の心の中で鐘が鳴り響いた。
女の子たちからも「必死すぎてキモいけど適任すぎるわ……」とお墨付きをいただいたことだし、早速その日の夜から一緒に帰ることになった。
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