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8.今日だけは
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「昨日の吸い殻、まだ暖かかった。いつもみたいに兎洞くんをしばらく観察するつもりだったのに、兎洞くんが一人じゃなかったから逃げたんだ。タバコの銘柄は中高年の男性が好んで吸ってそうなやつだった。普段はもっと本数が多い。多分吸い終わるまでに長くて二十分前後かかる」
つまり犯人はいつも、一時間弱あの場所に立ち続けていたのだ。帰り道の兎洞と、ベランダに立つ兎洞を見つめるために。
そして吸い殻でメッセージを作って帰る。わかりやすくストレートに言えばいいのに、面と向かって拒否されるのが嫌だから。拒否されるのは嫌だけど、どうにかして思いを伝えたいから。
(わかる……。わかるよ、お前の気持ち。僕も兎洞くんが好きだ。あんな心の綺麗な人、ほかにいないよな)
やっていることは死ぬほど気持ち悪いが、その行動に至った理由はものすごくよくわかる。同じストーカー同士なだけあり、ある種の共感を抱いた。
(でもな、兎洞くんを怖がらせる奴に、兎洞くんへの愛を語る資格はないんだよ)
兎洞の行動範囲からして、犯人はバイト先か、大学か、自宅付近に潜んでいると思われる。タバコの銘柄と本数、そしてアプローチから漂うなんともいえない古臭さから言って、現役の大学生とは思えない。ある程度経済力がある中高年の男性だということも絞れてくる。
そして、スト活する時間帯はといえば夜十時から十一時。カフェの閉店時間から兎洞の帰宅時間に重なる。
それでは、カフェに現れる迷惑な客か? と思ったが、兎洞の働くカフェに出没する迷惑な輩は、片っ端から待鳥が浄化した。しかもあの店は全席禁煙だ。
早くも推理が行き詰まった。
たまに現れるクレーマーがストーカーになるとは思えない。
(いや、「迷惑な客じゃない」んだ)
そもそもの前提が間違っていた。向こうは微妙に少女趣味をこじらせている、面と向かって兎洞に関わる勇気がない野郎なのだ。ネガティブな印象を植え付けるのは極力避けたいところだろう。
しかし待鳥のストーカーセンスが語りかけてくる。こいつは浄化が間に合わないくらい、夢見がちで独善的な化け物だ。
そしてあのメッセージ。
もしあの八日目の吸い殻がピリオドのようなものだとしたら、奴は今夜、何か仕掛けてくるに違いない。
(兎洞くんと友達が危ない!)
しかしそれを怪しまれずに兎洞に知らせる手段はない。自分がストーカーだと明かすようなものだ。だが迷っている暇はない。一度はすっぱりやめると決めたが、兎洞の精神的ダメージを最小限に抑えるにはこれしかない。
「兎洞くん、ごめんね……。僕は気持ち悪くて最低な奴だけど、今日だけは君のストーカーとして、君を守らせてくれ」
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