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#3秘めた想い……
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スケッチブックを膝の上で抱えて、目の前で椅子に座って本を読んでいる彼を黙って見ながら、絵を黙々と描いていた。鉛筆を軽く走らせながら似顔絵を書き終えると、そこで『出来た!』と独り言を呟いた。
「ん? 直斗、絵を描いたのか?」
「あ、うん……! 美術の課題で出すんだ…――」
「どれどれ、俺にも見せてみろ」
「やっ、やだよ! これはダメ……!」
「なんだ。恥ずかしい絵でも描いたのか? ああ、それともセクシーな女性の絵か?」
『ちっ、違うったら……! そんな下品な絵なんか描くかよ!』
「まーまー、いいから俺にも見せろって。お前、絵は姉の奈緒と同じくらい上手なのは知ってるんだぞ?」
「姉さんは関係無いだろ……!? わっ! ちょっ、俺のスケッチブック…――!」
彼は俺から無理やりスケッチブックを奪うと、勝手に見た。
「ん? なんだ。ミーシャを描いたのか。上手く描けてるじゃないか、別に変な絵でもないぞ?」
「そう、優也さんの膝の上で気持ち良さそうに寝ているミーシャを描いたんだよ……!」
「何をそんなに恥ずかしがってるかと思えば猫か……。ぷっ、大袈裟な奴だな」
そう言って目の前で笑った。そこでムッとなると、彼からスケッチブックを奪おうとした。
「わっ、笑うな……! いいから早く返せよ……!」
『おっと…――!?』
その瞬間、バランスを崩して彼の方に向かって体が凭れた。優也さんは俺のことを咄嗟に自分の腕の中に抱きとめた。彼の逞しい腕が俺をしっかりと受け止めると、そこで急に意識してしまった。
「ッ…――!」
胸の中がドキドキしてくると、顔が自然に赤くなった。彼の体の近くで熱を感じるだけでも、鼓動の音がうるさくてしょうがなくなった。
「はっ、離せよ……!」
焦りながら彼の腕を振り払うと、床に落ちたスケッチブックを慌てて拾った。ミーシャは俺がいきなり大きな声を出したから、驚いて部屋から出て行った。
「あっ、すまん……。何も急に怒鳴る事はないだろ?」
「っ……」
「そんなに誰かに見られたくなかったら、人前で描かないことだな。さてと、そろそろ昼飯にしようか。お前、何食べたい?」
彼に言われるとカッとなって言い返した。
『勝手に人のスケッチブック見ようとする、優也さんの方が悪い!』
そう言って怒って自分から部屋を飛び出すと、ドアの後ろに背中をつけてトンと寄りかかった。そして、ため息を吐くとスケッチブックを開いた。そこには、彼の本を読んでいる姿が描かれていた。その絵を眺めながら、胸の辺りはまだドキドキしていた。
「……ったく、こんな恥ずかしい絵なんな見せられるかよ!」
そこで彼の事を意識してしまうと持っていたスケッチブックを両手で切なく抱きしめた。そして、直ぐに自分から謝りに行った。そっとドアを開けると、彼は前髪を掻き上げて佇んでいた。
「……優也さん」
「ん?」
「オムライス。お昼ご飯はオムライスがいい……! ケチャップ多めでね!?」
そう言ってボソッと話すと彼は俺の方を見て笑った。
「じゃあ、お前の好きなオムライスでも作るか?」
「うん……!」
「お前も作るの手伝えよ。はい、卵割る係りな!」
「え〜!?」
「えー、じゃない。ほら、早く手伝う!」
俺達はちょっと喧嘩しても直ぐに仲直りできた。優也さんは俺にとって兄でもあり、大好きな『男性(ひと)』だった。彼とはその優しい時間がいつまでも続くんじゃないかと思っていた。あの時までは――。
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