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不安と期待
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もし、僕がもっと早く彼に出会えていたら。
もし、僕がもっと明るい性格であったならば。
もし、僕がーーーふわふわして甘い香りがする可愛らしい女の子だったならば。
彼の目にすこしでも映る事ができたのだろうか。考えても切りが無いくらい頭の中に浮かんでくる、もしもの話。現実ではきっとあり得ない話。
僕こと金本春(かなもと はる)は、昔から身体が弱く、調子がいい日が続くこと自体稀である。だから、大抵大きな行事ごとにはあまり参加することが少ない。今日は、高校2年になって始めての登校日。案の定というか、始業式の前日に熱を出してしまい、その日から数日たっている。
こういった最初の行事には、なるべく参加したかった。なぜなら後から行くほど、教室に行きづらくなるし、なにより人との関わりを苦手とする僕が、いまさら出来上がっているグループに入ることなど出来ないからである。
ーーーあぁ、本当に憂鬱だ
おそらく、もう朝礼の時間なのだろう。人の気配のない、シンとした校舎までの道のりをただ黙々と歩く。
ーーーそういえば、職員室に来るようにって通達が来ていたっけ
ふと、ポストに入っていた封筒を思い出す。白く輝く便箋に入っていた、綺麗な文字で彩られた文書は、きっと担任なのだろう名前で終わっていた。名は人を表すというが、文字もその人を表すものである。あんなに綺麗な文字を書くのだから、きっと良い先生なのだろう。そう、ぼぉっと考えながら歩いていたせいか、ドンッと何かに肩がぶつかった。
「ーー、っあ」
咄嗟のことで足で踏ん張ることが出来ず、そのまま倒れて行くのがわかる。仕方ない、かな。そのままギュッと目を閉じ、倒れるのを覚悟の上でいると、不意にグイッと腕を引かれた。
「っぶねえ。わり、大丈夫か?!」
「ーーー、え」
ゆっくりと、硬く閉じた目を開くと、此方を心配そうに見つめる目と視線が交差した。
ーーーーとくん、
心臓が少し早く動いている気がする。びっくりしたからかな。
「だ、大丈夫。あ、あの」
「ごめん!俺急いでるから!あ、どっか悪いとこあったら、2-B高橋のとこまでお願いします!!」
僕が謝るよりも先にそう言うと、彼は慌ただしく走っていった。あの人も、2年生なんだ…。不思議と頬が緩んだが、僕も職員室に早く行かなければならないので、ここで突っ立っている暇はない。僕は、これからの学校生活に少しの期待をのせて、一歩足を踏み出した。
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