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対面
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「金本ー、入ってこーい」
柳瀬先生の声で、前を見据える。…大丈夫、大丈夫。何も心配しなくていい。…行こう。
ガラッ
扉を開けて、一歩踏み出す。…、やっぱり視線が痛い。少しばかり速足で教卓の近くに行く。
「ぁ、あぁああーーっ‼︎‼︎」
「うっせぇぞ、高橋ィ!!」
椅子がガタンと盛大に倒れた後、こちらを指差しながら叫ぶ彼に、柳瀬先生が容赦なくチョークを投げつけた。勢いよく額に叩きつけられたそれを気にせず、金魚のようにパクパクと口を動かしている。
「ったく、んなアホ面かましてねぇでさっさと席つきやがれ!」
「いやっ、でもその子…」
「いーから座れってんだよ。一回で聞き取れバカ橋」
「…、はい」
高橋君は、倒れていた椅子を直し、しょんぼりしながら席についた。
「はぁ…、わりぃな金本」
「ぁ、いえっ!大丈夫です」
「あー、お前らに紹介する。こいつは金本春。1年の頃同じクラスだった奴もいるかもしれんが、生まれつき身体が弱くて、なかなか学校に来れなかったらしい。いろいろと分からない所も出てくると思うから、出来ればサポートしてやってくれ。金本、挨拶」
とん、と背中を軽く押されたことで、前につんのめる。挨拶っていっても何を言えば…。
「ぇ、ぁ、っえっと、あの…」
どうしよう。何も思いつかない。ぐるぐると不安が渦巻く。は、早く話さなきゃ。…幾重もの視線が突き刺さる。
ぷっ、
何も思いつかず、頭が真っ白になり、俯きそうになったとき、誰かが噴き出した音がした。顔を上げると、教室の後ろに鮮やかなオレンジのカチューシャをつけた男がこちらを見ながら笑っていた。
「ブフッwちょ、なにこの子かあいいんだけどっ!!」
「うっわ、出たよ佐原のウザ絡み」
「ちょっとー、金本君が話せないじゃん!黙りなよ佐原、うるさい!」
…気のせい、だろうか。あの人のおかげで、堅苦しい空気が飽和され、僕自身の緊張も解れたような気がする。わざとか本気で笑ったのかどっちでもいいけど、有難いことには違いない。
「金本春です。あの、始業式には来れなかったけど、今日からこのクラスで頑張って行こうと思ってます!それで、その…」
「がんばれ春ちゃーん!」
「え⁈春ちゃ⁈ぇと、はい。皆さんには迷惑掛けちゃうかもしれませんが、一年間よ、よろしくお願いします!」
パチパチと拍手が鳴る。詰まっちゃったけど、きちんと言えてたかな。ちょっと不安だ。
「うーし、金本の席だが、…何処にすべきか」
「はいっ!」
バッと、一本の腕が上がる。高橋君だ。
「お前なぁ…。あー、はいはいわかったわかった。金本ー、高橋の隣に座れ」
先生は呆れたように溜め息を吐くと、しっしっと手を払い、支持を出した。頷き、席まで一直線に歩く。近づくにつれ、身体が鈍くなる。
目の前に来た。
「よ、よろしく。ぇと、高橋、くん」
「ん!よろしく!!…そ、それよりさっきはゴメンな。どっか怪我とかしてなかったか?」
コソコソと高橋君はそういうと、不安そうにこちらを見た。
「うん。大丈夫」
「そっか!よかったぁ〜」
とくん、
まただ……。
へにゃりとした高橋くんの笑顔をみて、心臓が一際大きく跳ねた。
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