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温もる心
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半年前。
自動販売機の前に佇むエイムの姿に、俺の飼い主が口を開いた。
「次のターゲットは、あいつね。あんなアホヅラしてるけど、一端の番犬なんだよね」
身体を売るくらいしか生きていく術がなかった俺を拾ってくれた人。
「悪いことして貯めた金だから、罪悪感なんて持たなくていいよ」
ついでにデータも引っ張ってきてくれると助かるな、と真横に立つ俺の頭を、わしゃりと撫でる。
俺の飼い主であるこの男、久家野(くげの)は、汚い金を盗んで生きている。
勿論、汚れた金なのだから、盗まれたからと警察になんて届けられない。
「時期はお前に任せるよ。半年以内に、片付けてもらえれば、俺はいいから」
にこりと深い笑みを浮かべた久家野が、俺の顔を覗いてくる。
俺は、エイムの後ろ姿を見やりながら、どうやって懐に潜り込もうかと画策する。
心底嫌いな相手を見やるように瞳を細めた久家野は、怨念を込め、番犬の背を睨める。
「大きな取引の前なら、尚良しだね」
取引の失敗を思い描いたのだろう久家野は、くふふっと楽しげに笑った。
その笑い声に押されるように、俺は足を進めた。
俺の本名は、尾野 葵依(おの あおい)。
エイムという呼び名が、標的の〝aim〞からだと知っていたから、俺は尻尾の〝tail〞にした。
好きになど、なる予定じゃなかった。
必要な情報を聞き出し、利用するつもりだった。
不要になったエイムなんて、簡単に切り捨てられるはずだった。
だけど。
奢られた缶のココアが俺の両手を温めた。
その熱は、じんわりと心に沁みていく。
黙って受け入れてしまうところも。
俺なんかを独占したがるところも。
詮索してこないところも。
そこはかとなく優しいところも。
一緒が好きなところも。
いちいち俺の心を、ときめかせた。
大きな犬に懐かれているみたいで、エイムとの暮らしが楽しくなっていた。
でも。
いつまでも、そのぬるま湯に浸かっている訳にもいかなくて。
俺は、飼い主を裏切れない。
がっかりさせる訳には、いかない。
そろそろ、この居心地のいい場所から去らなくてはと、腰を上げた。
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