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4月の戯言
うちの男子高校は、ちょっと造りが独特だ。コの字を描くような建物なんだが、その隅っこに部室棟が連結されている。この部室棟がコンクリートだらけで、部室棟の環境はめちゃくちゃ悪い。冬は寒いし、夏は暑い。利用している生徒は、そう口々に言う。
だが、欠点だらけではない。極悪環境だからこそ、日中は人が寄り付かないんだ。そこで俺のようななりそこない教師が、堂々と煙草を吸えるってワケ。
やれ値上げだ、タバコのポイ捨てに寄る環境がどうたら。今や喫煙者の肩身は狭い。それが生徒の模範となるよう位置づけられている教師ならブーストかかっている。喫煙者が少ないからって、去年の喫煙所撤去は流石にやり過ぎだろう。
部室棟の隅、特に人目に付きにくい端の赤い鉄骨の外階段の一番上から三段目は、腰を下ろして縮こまっていれば、上手いかくれんぼスポットだ。サボりたい時や厄介事の時などは本当にお世話になっている。
気づけば、ちょくちょく誰もいない部室棟に足を進めていた。そもそも、自分…飯島望は定位置である職員室にいる人間じゃない。…かと言って、職業柄割り振られている理科室に閉じこもっているほど引きこもりでもないが。
今日も気づけば、授業のない午前十時過ぎに、部室棟の端っこで湯気をあげる白いマグ片手にいつもの階段に座り込んでいる。時折、仕事について考えながら、マグの中のインスタントコーヒーをずずっ、ずずっと猫舌特有の“他よりマシだろう表面だけちょっと飲む”作戦で乗り切ろうとしていた。
だが、穴場の部室棟秘密基地的階段も、いいことばかりではない。デメリットをあげるとすると、階段をのぼり切ったすぐそばの手摺に寄りかかっているコイツみたいなのが集まるとか。
「…“のんちゃんセンセ”、ガッコって何でこんな退屈なの??」
望で“のんちゃん”…理科教師の俺に哲学をぶっこむんじゃねー。余裕で許容範囲外だ。
黒の学ランを見事に着崩して(第三ボタンまで外して、瑞々しい胸板を晒す奴があるかバカ)大層不満げに呟くコイツの名前は、谷原一真。短く切り揃えられたくすんだ金髪は、常識的にいうと、大気圏外クラスで校則違反だ。…つまり、コイツは“不良生徒”ってわけ。
「センセ呼ぶな。何度言ったらわかるんだ。せんせ“い”だ。“先生”が嫌なら、百歩譲って“センセイ”って呼べ。」
客観的にはわかりづらいが、谷原の発音はカタカナ表記が適切に思える。敬っている“先生”じゃなくて、フレンドリーと若干の“www”が含まれた発音。それが“センセ”。
「ぅし、“センセー”。」
「伸ばすなっつってんだろ。こんなん、今時小学生でも言えるぞ。ほら、“センセイ”。」
俺だって合間とってきちんとした発音じゃなくて良いって言っているんだから、少しは努力して欲しい。
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