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パン
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今日は篠木目の帰りが遅いので、木賊が料理を作ることになっている。だが部活から帰った木賊は、なんとなくその気になれずに、スマホをいじったりテレビを見たりしていた。
「今日は何作るか…」口に出すとそれが悩みなのだとわかった。テレビのスイッチを切りスマホを置いて、冷蔵庫の中を覗くが、上手いアイデアが思いつかない。
冷蔵庫の中には昨日残った大根や、サラダの残りがあった。
そこで木賊は、近所のスーパーへ買い物に行くことにした。
そこで鮭を買い、今日はシンプルに焼き魚と味噌汁とご飯にして、昨日のサラダを作った野菜の残りとハムでサラダを作ろうと思った。
スーパーへ入った木賊は、足を止めた。今日は、福引が行われていた。
買い物の後、レシートを確認してもらい福引をすると、なんと、高級ブレッドが当たり、木賊は上機嫌だった。スーパーの売り場へ戻り、ちょっといいジャムを買ってしまった。買ってから、これではスーパーの思う壺にはまっているではないかと気付き、苦笑した。
家へ帰り、米を研いで炊飯器にセットして、魚を焼いた。サラダを黙々と作りながら、魚が焼ける匂いを嗅いでいると、篠木目が帰ってきた。
「ただいま、木賊。」
名前を呼ばれて、木賊は、犬のように、エプロンをしたまま駆け寄った。
「おかえりなさい、博仁さん。」
スーパーのくじ引きで高級なパンが当たったんです、と、木賊は嬉しそうに篠木目に告げる。その様子を見ていて、何とはなしに、篠木目も嬉しくなった。
「明日は美味しいパンだな、少し早起きして。」篠木目がそういうと、木賊が嬉しそうに笑った。
次の日の朝。早くから、木賊は目を覚ましてしまった。ふかふかのパンが食べられる。それは、食欲旺盛な世代である木賊にとって、待ち遠しくて仕方ないイベントであった。
テレビをつけるとラジオ体操がやっていたので、戯れに少し運動をする。それでも篠木目は起きてこないので、木賊は台所に立ってスクランブルエッグを作り始めた。
卵を溶いて、油で炒める。これは、焼いたパンの上にケチャップと一緒に乗せたら美味いだろう、と木賊は考える。特別に、バターも載せちゃおう。バターの塩分とスクランブルエッグのタンパク質が溶け合う様を想像しただけで、木賊は自分の脳みそまでもとろけるような気持ちになる。
バターを塗ったパンをトーストしながら、昨日のうちに作っておいたいちごジャムを取り出した。卵を使いすぎだとは思うが、卵を使ったフレンチトーストに、いちごジャムを掛けて食べる算段なのだ。
こんなにおいしいものを一人で食べるのも忍びなく、コーヒーを淹れて篠木目を起こした。
「博仁さん、朝ですよ!美味しいパンの日です!起きて!起きて下さい!起きろ〜‼︎」
ここまでに木賊は、すでに全ての朝食の準備を終えていた。完璧な卵サンド、完璧なフレンチトーストいちごジャム付き。完璧なコーヒーに、完璧なサラダ。あとは、篠木目を起こすだけだ。低血圧な篠木目はなかなか起きず、パンやコーヒーが冷めてしまう、と木賊は焦る。
「まだ、眠いよ…」とかなんとか、ぐずぐずと篠木目は起きない。今日は休日なのだから起きなくていいわけだが、木賊はそんな怠惰は許さない。大事な朝ごはんを、篠木目が食べないなんてことがあったら、木賊にとっては大きな心労なのである。
「…張り切ったね…」やっと起き上がった篠木目は、木賊が用意した料理を見て、早くも胃が痛いという顔をした。美味しそうだとは思う。しかし、それ以前に胃が痛む。最近、篠木目は多量の料理が食べられなくなっていた。
「これ、すごく美味しいですよ!博仁さんも食べて下さい!」
木賊は、己の感動のままに篠木目へ食べ物を押し付ける。篠木目は、これ以上高血圧になるのはまずいと、木賊の勧めを拒否したいのだが、ついつい、美味しくて食べてしまうのだった。
「いや、だめなんだ…!よしなさいっ、…!あ、これ美味しいな。止まらない。美味い、美味すぎる…」
「そうですよ、博仁さん、たまには自分の欲望に素直になりましょう。…ほら、もっちりして、おいしい…」
篠木目は、木賊に勧められるまま、フレンチトーストを食べてしまう。
「あ、甘い…なんて美味いんだ…もう、俺はダメだ…体に毒だと、わかっているのに…」
木賊の甘い誘惑に、篠木目はなす術もなくはまった。
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