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「はろうぃん?」
「せやで。仮装して、お菓子をもらうイベントや」
「なるほど?」
とある平日の昼間。同居人であり恋人である男は仕事のため家にはいない。猫以外誰もいない家だとすることもなくて、友人のバイト先へ遊びに来たら、それは告げられた。
生きて十九年。そのイベントに興味を持ったことはなかった。確かに、変なカボチャがいるなーと思っていたけど、そんなイベントがあったとは。
「ちゃんと、Trick or Treatっていわなあかんよ。これを言ってはじめてお菓子が貰えるんや」
「めんどくさくね? 俺、そこまでほしいと思わないよ」
「身も蓋もないこといったらあかんって」
もともとお菓子を食べる機会はほとんどなかったんだ。それに、あの家でそれが出てくることもなかった。出てくるのは三食のご飯だけ。……うん、いらないから、しなくていいや。
「俺は別に「時野さん、絶対に喜ぶと思うんやけどなぁ」……なにを根拠に?」
「訑灸の女……仮装やで! 絶対にかわいいに決まっとるやん!」
断ろうとしたのに、恋人の名前を出すから聞き直すと、不穏な気配がする。こいつ、なんか言い直した!
「というわけで用意した衣装はこれや」
「……なんで、これ?」
差し出されたのは、学生のときに女子が来てた服。丈はとても短い気がする。校則違反だろ、このセーラー服。
「ちゃんとエクステもつけて、上から下までかわいくしたる」
「だから、なんでそうなるんだよ」
勝手に話が進んでいくんだけど、俺はやるなんて一言もいってない。こいつなんなの、俺の話だけ聞かないの、ほんとになんなの。
「時野さん、絶対に喜ぶと思うで?」
「……」
「それにな……」
耳打ちされた言葉がすごく魅力的で、迷わず二つ返事をすることになるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「時野さん、かわいすぎる訑灸のお届けです!」
現在時刻、夕方五時を過ぎたくらい。連絡が来たから恋人が家にいるのは間違いなくて、二人で帰宅した。俺、セーラー服着て街中を歩くって屈辱を体験させられたんだけど。この格好は嫌だったから、めっちゃ喧嘩して深めの帽子を被ることで俺が折れた。着替えて会わないと意味がないって言うんだ、どういうことよ。その帽子は玄関の前で外した。
後に続いてリビングに顔を出すと、しゅうはソファーに座って寛いでいた。
「な、にーーっ!?」
振り返った顔と目が合うと驚きに満ちた表情へ変化する。確認せねばなるまい。
「しゅう! 似合ってる?」
「とても似合ってるよ。これは、どういうことかな?」
恋人の視線は俺じゃなくて隣の友人に向けられる。発案者はそいつだけど、俺じゃなくてそいつに迷わず確認しようとするのおもしろくない。俺が言い出したかもしれないじゃんかー!
「いやー、そろそろハロウィンなんで、訑灸で遊……げほげほ、コスさして時野さんを喜ばしたろーと」
「おい、本音。そっちが、本音か」
今こいつ咳き込んで誤魔化したけど、わかってるんだからな。最初から俺で遊ぼうとしてたんだな、許すまじ。隣にいる男を肘でげしげしと攻撃する。
「怒らんといて。時野さん、喜んどったやろ?」
「どうなの」
苦笑いを浮かべるそいつが、むーかーつーくー! ジト目で恋人に確認すれば、俺の好きな暖かくなる笑顔が返ってきた。
「似合ってるし、かわいいよ」
男なのにセーラー服が似合うって複雑だけど、しゅうが喜んでくれてるならいいや。嬉しくて早く抱きつきたい。隣の男が冷やかしそうだから、今すぐできないのがとても悔しい。
「手が出せないのに、なんてことをしてくれたんだ。スカートの丈!!」
「いやいや、ヤっちゃいましょう!!」
「樫葵くんっ!?」
なんて考えてたら、二人は小声で秘密の会話をしていてそいつの名前を大声で叫ぶから、驚いた。何事かと二人を見る。
「そのために着せたんや。チューしたら、イチコロやって」
進の言葉に首をかしげる。この格好でちゅーしたいの? そもそもなにがいちころなんだ?
「この格好でちゅーしたいの? する?」
わからないから、恋人に訊ねる。聞くのが一番早いと思ったのに、恋人の顔はみるみる変化していく。これはいつぞやかのデジャブ。そのときはとても長いちゅーだった。
「あーもう! 誘ったのは君だからね!」
「お邪魔虫は、帰りまーす」
不思議な連携プレイだった。隣にいた友人にソファーの方へ押されたかと思えば、立ち上がった恋人が腕を掴んで抱き寄せる。その間に、あいつ帰っていったんですけど? オートロックだから鍵を閉めに行く必要はないし、離れる理由もない。背中に汗が伝う。あれ、これは、どういう流れ?
「ちょっ、しゅう!?」
焦って名前を呼べば、楽しそうな笑みを向けられる。これは、完全に、そっちを踏み抜いた。いや、でも、これが目的だったから間違いないんだけど、待って、心の準備。あれ?
『それにな、それ着たら時野さん、その気にさせられるかもしれへんよ? チューだけは嫌なんやろ?』
あいつにそういわれて、そのときはそれが魅力に感じて受けたけど、待って待って、こんなにうまくいくなんて聞いてない!
「ねぇ、訑灸。君は僕のことなんだと思ってるのさ」
「しゅうは、しゅうだろ?」
抱き締めながら不思議なことを訊いてくる。しゅうはしゅう以外になにがあるんだよ。と、思っていた時期が俺にもありました。
「ひぁっ?」
「エクステまでつけて、スカートもこんなに短くしちゃって」
しゅうの左手がスカートの裾から太ももをなぞっていく。丈が短いから捲らずとも簡単に肌を這い、触られたところからぞくぞくと肌が痺れて熱を持つ。手つきが、いやらしいんだ。
「しゅう、まっ、まって」
「待つわけないだろ。煽ったのは君なんだ」
「んんっ」
動く手はそのままに口が塞がれる。すぐに舌が侵入して激しいものになる。ちゅーと左手だけでも気持ちよくてとろけそうなのに、今度は右手がスカートの上からおしりを揉んでいく。
「ふっ、ぅん!」
ねっとりと舌を絡み取られて、しゅうの口内へ吸われていく。この瞬間が一番気持ちよくて、頭が、クラクラしてきた。
「……訑灸?」
「はぁ、はぁ……」
突然解放されて、胸に寄りかかり息をする。
「ごめんね、無理させたかな」
そういって離れていく気配を感じたから、慌てて抱きついて引き留める。もう、我慢できない。俺はこの先までしたいのに。
「訑灸?」
不思議そうな声がする。きっとこの行動の意味がわからないんだと思う。だから、教えてあげるんだ。
「ちょっと!?」
そばにソファーがあって良かった。力ずくでそこに押し倒して、起き上がる前に跨がる。その気になればすぐに形成は逆転されるんだけど、その前に仕掛けるんだ。
自分からのちゅーなんて触れるくらいで終わるから慣れないけど、さっきと同じように口付けておずおずと舌を入れていく。その間に、来ているシャツのボタンを一つずつ外していく。脱がせばきっとどうにかなる。
「ふっん、ぅん、はぁ」
はずだったのに、いつの間にかリードされているのは俺に代わっていて、離れないように両手で頭を固定された。執拗に絡んでくる舌から逃げたいのに、逃げる術を無くして口内の隅々まで堪能されていく。歯列をなぞり、舌を絡めとり、息が、できない……。
「ふはぁ、はぁ…はぁ……」
ちゅーが気持ちよすぎて、シャツのボタンも三つ目で止まってしまった。
「これは、どういうこと?」
「ちゅーの、先がしたいのに……」
戸惑った声で訊かれて、ついにそのまま伝えてしまった。これ以上はもう手が出せない。
拒絶されるのが怖くて、ほろほろと流れる涙を止めることはできなかった。
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