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優しい君
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「たか…はし」
振り返った俺は息を飲んだ。
まさか、こんなところで見つかるなんて。
想定外だ。
「はッ……はぁ……はぁ……」
高橋は、猛スピードで走ってきたのか、凄く苦しそうに上半身をかがめ脇腹を抑えている。
何か、喋りたそうにこちらを見ているが息が整わないようで、ゼーゼー言っている。
あまりに苦しそうだったので、逃げ出すことも、怯えることも、すっかり忘れてしまい。
「だ……大丈夫?」と、声をかけてしまった。
「ちょ……ちょっ、…まって……」高橋は、荒い息を振り絞ってそれだけ言うと、本格的に息を整えようと、大きく深呼吸しだした。
俺としては、待っても何も、高橋に左腕をガッツリ掴まれているので逃げたくても、逃げれない。
しかも、余りにも突然の登場に、頭もついていけてなくて、どうしたらいいかわからない状況だ。
最後に、はーっと息をはき。高橋はやっと落ち着いてきたのか、体を起こし俺のことをジッと見つめ、ガッツリ掴んでいた手を少しだけ緩めてくれる。
あ…やばい、逃げなきゃ。
そう思うが、高橋の緩まった手をふりほどく事はできなくて、高橋の目をそらすこともできなくて、俺はその場に立ち尽くすことしかできない。
左腕に感じる高橋の手の温度が、とても熱く感じるのは、高橋の体温自体が高くなっているからだろうか。
それとも、俺が意識しすぎているせいなのだろうか。
前者であってほしいと、心に願う。
少し沈黙があった後。
「探してたんだ」と高橋が先に口を開いた。
俺が何も言えないでいると。高橋がまた口を開く。
「健人に拓馬の事聞いたら、お前とは全然別人だった。何で、嘘ついたんだよ」
その言葉にドキッとする。
確かに最終的には嘘をついてしまったかたちになったが、嘘をつくつもりは無かった。だから、高橋の口から「嘘」という単語を投げかけられ心が痛む。
「それは……」弁解しようとしたが、言葉が詰まってしまう。きっと言い訳にしかならない。
確かに、高橋に言えなかったのは、高橋がタイミングを与えてくれなかったせいでもあるが、それに安心して流されてた自分もいる。
俺が口を開くことに躊躇していると。
「もう…会えないかと思ったんだ。」と、高橋が言った。
その顔は、俺に会えて良かったと、安心したように微笑んでいた。
その顔に、胸が苦しくなった。
そんなに強く掴まれているわけではないのに、掴まれた腕がジンジンと痛む。
高橋の手が熱い。
その熱がどんどん伝わってきて、鼓動が早くなる。
我慢できず「離して…」と、つぶやいてしまう。
やはり高橋の存在は、俺にとって危険だ。
今一度、高橋に会って確信した。
何か言おうと口を開きかけた高橋の言葉を聞く前に、俺は声をあげる。
「あのさ、昨日の夜の事なんだけど…あれ全部忘れて欲しいんだ…」
声はだんだん消え入りそうなものになってしまった。
高橋は、少し手をピクりとさせて
「なんで…」とだけ言った。俺を掴んだ手がさらに緩まる。
俺は、緊張を握り潰すかのように、手をギュっと握り、高橋の目を見て口を開いた。
「……あんたとは、関わりたくないんだ。」
高橋の目が見開かれる。
「困るんだ、俺は今まで真面目に生きてきたから。あんたみたいなやつと関わってたら周りに変な誤解されるだろ」
たてつづけに言葉をはっする。声が震えていないだろうか、しんぱいだ。
「ッ………」
高橋は、口を開きかけたが、言いたいことを全て呑み込むように押し黙った。
「だから、俺のことは忘れてほしい」
俺の言葉を聞いても、高橋はしばらく黙ったままだった。
高橋の手はいつの間にか、腕から離されていて。
俺は「ごめん」と、つぶやいて、その場から逃げた。
言いたいことを言ったのに、気持はちっともスッキリしなかった。
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