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優しい君
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高橋と別れて、家へ帰る道のりで先程の事を思い出す。
あんなに、はっきり高橋に物が言えるなんて自分で自分が恐ろしい。
それにしても…
酷い事を言ってしまったなと、今更ながら後悔が降ってくる。
本心といえば本心だが、流石にもっと言い方があったように思う。
出会って間もない人間に、面と向かって「関わりたくない」何て言われたら、誰だって傷つく。
別れぎわの高橋の顔が忘れられない。
何も言い返してこなかったし、きっと凄く傷つけてしまったんだろう。
でも、上手い言葉が出てこなかったんだ。
早くあの場から…高橋から開放されたかった。
掴まれていた左腕の感覚がまだ残っていて、そこを手でギュッとおさえる。
高橋が、俺を変にするから……関わりたくないんだ。
胸がチリっと痛む。
最悪だ…
自分の勝手な都合で人を傷つけといて、言い訳なんてみっともない。
自分の不甲斐なさに、は~っとため息が出る。
きっと、俺の方がおかしいんだ。
高橋に対しての、自分の思考回路は異常だと思う。そんなこと今までに無かったから対処に困ってしまった。
それであんな事を言ってしまったんだ。
俺のエゴで高橋には悪いことをしてしまったと思う。
でも、これからはその心配もしなくてよくなったんだ。
もう高橋と関わり合うことはないんだから。
は~、無意識のうちにまたため息が出た。
なんなんだろうか…この虚しさは。
昨日の、高橋の優しさはもう絶対に与えられないと思うと何だか辛い。
自分が望んだことなのに、ばかみたいだな。
優しくされるどころか、高橋とは気まずくて目も合せられないだろうな。
きっと高橋もあんなこと言われて、もう俺とは関わり合いたくないはずだ。
高橋が不良でよかった。教室で会うこと、滅多にないもんな。
これで俺の日常も変わらない。
もう、昨日の夜のことは、無かったことになるんだ…
家に帰るとリビングに母がいて、俺が早く学校から帰ってきたことに疑問をもったようで、どうしたのかと聞いてきた。
母の顔は歪んでいたが、心配のそれではなかった。
「ごめん、ちょっと体調が悪くて、早退させてもらったんだ。熱は無かったから少し寝たら治ると思うから、」
心配しないで、っと続けようと思ったがやめておいた。
「そう、早退なんかして、勉強の方は大丈夫なの?」
「今の授業範囲はもう自分でやったから大丈夫、心配しないで」
そう言って、自室に行こうとしたところで、母に呼び止められる。
「明希、学校を早退したことは」
「大丈夫、お父さんには言わないよ」
「えぇ、お願いね。」
それだけ言うと、母はもう安心したのか俺から意識をそらした。
自室に入り、ぼふっとベットに倒れ込む。
あぁ…何だか泣きそうだ。
先程の母との会話を思い出す。
母が気にかけたのは、俺の早退が自分の落ち度にならないかだけだった。
俺だって、人間なんだから熱が出る時は出るし、勉強が進まない時は進まないんだよ。
もし、仮にそんな事があっても、悪いのは母なわけないのに。
それを、母のせいにする人がいるから、母も気にするんだろうけど…
いつもなら別に、あんな会話普通で、何言われても、こんなに弱ることなんてないのに。
高橋の事があったから余計にだろうか。
でも、もう泣いたって無駄なんだ。
昨日みたいに慰める手は無い。
「しっかりしろ」
俺は自分の中に言い聞かせるようにつぶやいた。
次の日の学校は、本当にいつもどおりで。
斜め前の席は、相変わらず空席で。
クラスには高橋の噂がたまに飛び交い。
俺は、今まで以上に勉強に集中した。
俺は、もうこうやって生きていくしかない。
これが、自分の選んだ世界なんだ。
そう思いながら、俺は高橋とのあの輝いて見える日の思い出にそっと蓋をした。
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