アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
優しい君
-
皆が遠巻きに高橋を見守るなか
「おっす高橋、久しぶりじゃん」
と、クラスのムードメーカーのような存在である西川が好奇心ゆえにか、それともムードメイカーの使命を果たすためにか、一人教室の中で浮き上がってしまった高橋に声をかける。
机に付していた高橋は顔だけ西川の方へ向けて、声が自分にかけられたものだと判断し、体を起こしながら口を開く。
「え?…えーっと。西山?」
「いや、西川な」
自信の無さそうに自分の名前を言い当てる高橋に、西川は乾いた笑をこぼしながら、言い返す。
「あーわり。どうも人の名前覚えんの苦手みてぇで」
申し訳なさそうに言う高橋に、西川は「あぁ、まぁ気にすんな」と尚も笑いながら答えるが、下がった肩からは落ち込んでいるであろう事がわかる。
そんな二人を、周りのクラスメイトたちは、目の端で伺いながらもしっかりと耳をそばだている。
かく言う俺もその一人で、西川がなにか重要な、俺が安心できるような言葉を高橋から聞き出してくれるんじゃないかと気になって仕方がない。
今の感じからして、どうやら高橋は別に怒っているような雰囲気ではない、まぁ表に出していないだけかもしれないが。話しかけたのが西川ではなく俺だったら、また違った反応だったかも知れない。
俺がそう考えてるうちに、高橋の感じのいい反応に安心してか西川がまた口を開く。
「にしても、高橋が授業に顔出してんの久しぶりじゃね、どしたの?」
きた、さっそくいい質問をしてくれた。俺は、固唾を飲み込みながら高橋の返事を待つ。
一応、机には教科書やノートを開いているが、ペンは全く動かせていない。
「あー、ちょっとな。もうそろそろ授業くらい出とかないと、まずいかなーと思って…」
高橋は、一瞬言葉を考えてそう言った。
高橋のその答えに、西川は、「あ~なるほどね、確かに今まで全然来てなかったもんなー」と、納得してしまう。
え、それでいいのか西川。
俺的には、何でよりにもよって今日なんだ?とか、何で今更そんなこと考えたんだ?とかもっと問い詰めて欲しかった。
俺の、歯がゆい気持ちをよそに、西川と高橋はもう打ち解けたようで、何やら全く関係のない話に移っていった。
そのまま休み時間は、高橋は西川とたわいない話をして過ごし、何処かへふける様子もなく次の授業も受けた。
次の休み時間では、先程の二人をみて安心したのか、いつも西川とつるんでいる奴らも話題に入ってきたりしだし。さっきまで、一人浮いた存在だった高橋はあっという間に西川を含む何人かの生徒に囲まれてきていた。
皆、高橋の存在が今まで気になっていたらしく、話題は盛り上がっていて、高橋も楽しそうだ。
高橋が話してみると凄くいいやつだってことは、あの日に俺も感じたことなので、すぐに皆と打ち解けるのもわかる。
そして、やっぱり高橋は人が惹かれるような何かを持ているようで、周りの高橋への好奇の目などを見ていると、自分の高橋への気持ちも別に変なものではなかったように思えてくる。
皆、やっぱり高橋のことが気になるんだ。俺だけじゃない…と。
にしても、西川はさすがだ、あっという間に高橋と仲良くなったし、クラスの雰囲気も変わった。
それまで、高橋の様子を目の端で見ていた生徒たちも、高橋の存在が有害では無いと分かり、いつものように話始めている。
西川を見ていると、何日か前の自分の対応能力の低さを思い知らされる。普通はああやって友達を増やしてくんだろう、いいお手本を見た感じだ。
ああいうのを、コミュ力が高いというんだろうな。などと考える。
俺も、西川みたいな気さくで、明るい人間だったら、ああやって高橋と話してても、何の違和感もなく仲良くなれたのかな。
高橋のことあんなに拒まなくてよかったのかな。
高橋に言った言葉を思い出し自己嫌悪におちいる。
俺が、真面目で優等生な人間じゃなかったら、今あの輪の中に入っていっても教師や、他の遠まきに見ている生徒に変に思われることはないのに。
目の前で、楽しそうに話している高橋達をみていると、ずんずんと心が沈んでいく。
心は沈んだまま、時間は過ぎて。やはり、高橋は俺の事を気にしている様子はないし、俺だけ置いて行かれた気分だ。
これから毎日高橋がクラスに来ると思うと気が重いな、などと考えていたらもう帰りのホームルームの時間になっていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
20 / 35