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可愛い君
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―高橋斗真―
「ねぇ。斗真気持ち悪いんだけど」
お昼休み。いつものたまり場である屋上に、優の呆れと苛立ちを含んだような声が聞こえた。
俺と、優、健人のお決まりの三人でダラダラとだべっていたはずだったが(主に喋っているのは優だが)いきなり優からそのような言葉を投げかけられ、俺は「は?」と言わざるおえない。
優の目線は、ケータイを片手に持つ俺に注がれている。
「気持ち悪いって、なにがだよ」
一度だけ優の方へ目を向け、またケータイの画面に目を戻しながら優に問う。
「久しぶりに顔出したかと思えばさー。メールが来るたびニヤニヤしたり落ち込んだりなんなわけ?明希ちゃんとうまいこといったのは、背中を押した身として喜ばしいとは思うけどね、正直言って凄くうざい。ケータイ始めて持った中学生かよって感じ」
「何だよそれ。」
優の嫌味な言い方に少し苛立つが、自分でもメールが来るたびに一喜一憂しているふしがあるのは否めないので何も言い返せない。
むしろ、おれ自身も何とかしないとな。と薄々感じている。
本当に始めて友達できた子供かよ。てくらい日高のメールに喜んでいる自分がいて、ケータイにメールが受信されるたびに、もしかしたら…と日高からの返信を期待し。送信者が全く違う場合のあの、ハズレくじを引いた感はなんとも言えない。
「でもさー。なんとか仲良くなったっていっても、メールしかできないんでしょ?同んなじクラスなのに。それって楽しいの?それにメール返ってくるのも遅いんじゃ、会話になってないんじゃないの?」
優に言われた事にムッとしてしまう。
「いや、メールは楽しい。最初はめっちゃ素っ気ない返事ばっかだったけど、だんだん慣れてきたのか結構会話っぽくなってるし……て言っても、そんなにマメにメールしてる訳じゃないのは確かなんだけどな。返事は相変わらずおせーし。勉強あるし。さっきも一人で黙々と勉強してて、ケータイ見る素振りもなかったからこっちきたんだけど…」
言っている口調が段々拗ねたようなものになっていく。
メールを始めて数日。優には少し強気に答えてしまったんだが。
実はまだ会話らしいメールはできていないのである。
まだ、挨拶程度のメールを繰り返してばかりで、日高自身のことを聞いたり、話たりなどの会話はできていない。
そして、問題があるのだが。これから色々聞いていこうってとこなのに、最近さらに日高の返信ペースが亀の歩みのように遅くなっているのである。
気になってチラッと様子を見てみると、あいつはずっと机にかじりついている。
あいつが勉強優先すんのは当たり前だし。むしろそれでいいんだけど、ケータイが鳴るたび落ち込まなきゃなんない自分が虚しい。
俺が、暗く溜息を吐くと
「へー。まぁ、それは仕方がないよね。ね?健ちゃん」
と優が健人に話しかけた。だが…
「……」
優が健人に返事を求めるが、健人からは何も応答がない
健人は何やら難しそうな教材を読んでいるようで、こちらの世界を完全にシャットアウトしている。
そんな健人を目で流し、俺に再度目を向けて優は呆れた様に息をはく
「ほらね、ここにも勉学に励む学生が一人……彼らにとって今の時期はいわば学生の修羅場。戦いが始まる前に単語一つでも多く頭に詰め込んだ物が勝ち残る世界。友達にメールを返す暇がどこにあるって言うんだい?ここにいる人なんて、耳すら傾けないんだよ?長年連れ添った友より、お勉強大会の方が大事だっていうんだよ?」
優は、また盛大にため息を吐き、もう一度横目で健人をみた。
「おい、聞こえてんぞ」
健人が優を睨みつけながら、眺めていた教材をパタンと閉じる。
「俺は別にそんな大会に参戦したつもりはない。寧ろ、お前らの方がちょっとは意識したほうがいいんじゃないか?この期末の成績悪かったらマジでやばいぞ。今までサボリにサボって、試験もズタボロじゃあ卒業どころの話じゃすまないかもな」
健人の言葉に、優そして俺も、うっと口を詰まらせる。
そう、今は期末試験前。普段あんまり勉学に前向きではない生徒ですら、少しは机に向かう時間を増やす時。いつもガリガリ勉強してる奴なんかどうなるんだよ。と思っていれば、ガリ勉タイプはメールすらする暇がないらしい。
俺や優なんかはそんな期間はあってないようなもので、俺なんかは今やっと、期末前と知ったくらいだ。
そして、一年の時からダラダラしてきた俺と優は二年になってからというもの、全く授業に出ていないので、正直そろそろどうにかしないと、もう一度二年生をしなければならなくなる。
「でも、まぁ斗真は最近、動機はどうあれ授業には出るようになったみたいだからまだなんとかなりそうだけどな、そっちの人はどうするんだかなー」
そう言いながら健人は優を見下すような目で見る。
「うるさいな。俺だって、もうそろそろ本気出そうとしてたところだよ」
「お前の本気なんかたかがしれてるだろ」
「何だよ、健人だっていっつも一夜漬けみたいなもんじゃん」
「俺のは基本が出来てるからこそできることなの」
しばらく健人と優の争いは続き、段々アホらしくなってきたのか、健人が
「それで、今は時期的に仕方が無いとして、試験終わってからどーすんの」
俺の方へ話をふってきた
「え?どーするって?」
「メールのことだよ、これからずっとちまちまメールだけしていくつもりなのか?」
「え」
俺のその反応に、健人だけではなく優までもが呆れたようにため息をついた。
もう、メールすることで一杯一杯だったため、そこから先の事なんて全然考えていなかった。
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