アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
弱い決意
-
男は決して挿入しようとはしなかった。俺が首を傾げて居ると汗ばんだ胸板で抱きしめて、耳元で囁く。
「本番は?みたいな顔してるな。いいか?この世界に本番なんてない。何処までやらないとゴールじゃない、なんてねえのさ。俺は前戯こそを本番にしてる。」
そう言ってまた手を動かした。時には俺のと男のを擦り付け、互いに舐め合い。そして、俺は必ず男の手の中で果てていく。頭が何度も真っ白になって、なにも考えられなくなった。
「うまいな」
「そりゃあね。もう35年も生きてる」
「俺は26だ」
「お前も俺くらいになればこんなもんさ」
情事後の気だるさの中で二人抱き合った。汗ばんだ肌が互いに吸い付き合うのが心地よい。見れば見るほど男は逞しかった。大きな胸板に思わず頬ずりをして目を閉じる。
「ホーレットは帰ってくるのかな」
「ホーレット?」
「…天使だよ。いや、猫かもな。気まぐれで、素直なのにたまに傲慢な猫さ」
頭の中に浮かぶホーレットは、この間の夜の崇高なるホーレットだけだった。背筋がゾクリと震える。男は寒いのだと勘違いでもしたのか、抱きしめる力を少し強めた。
「…いや、もう帰ってこない。わかってるんだ」
「どうして」
「名前を教えてはくれなかった。犬を連れて行かなかった。なにより、…ッ」
言葉を噛み砕いて、飲み込んだ。口に出しては行けない気がしたのだ。それなのに男は俺の口を無理やり開かせる。言葉と同時に涙も溢れる。嗚呼、なんてことだ。神に捨てられて泣くだなんて。
「…荷物を、すべて持って行ったんだッ!!部屋には手紙だけがあった!!」
ぽんぽん、と背中を撫でる手に安心した。神に懺悔するのとはまた違う心地よさがあって、すらすらと言葉をつなぐ。
「決して俺のことを好きと言ってくれなかった、あいつは俺には触れることのできない神だったんだ…」
「Dio?」
「si」
そう。ホーレットは神だった。俺の天使で、神だったんだ。たった数週間だけ俺に舞い降りた天使。ひとりごちな気持ちを抱いて、男の胸の中で小さくgrazieと呟いた。胸のあたりがスッキリとして、楽になった気がする。それでも涙だけはとまらなかった。俺はきっと、ホーレットに依存していたんだ。そのことに気がついて自己嫌悪にかられた。
追いかけることも待つ事もやめなくては、ならない。自由にしてやらないと。男の胸の中で、最後に目を閉じるとホーレットが笑った気がした。
家に帰っても、ホーレットは居なかった。散々覚悟していたというのに。硬く冷たい床のうえでヨセフを抱き上げ、また頬を濡らした。雨は未だに降り続いていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
14 / 26