アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
昔から、0か100かの人間だった。
白か黒か、よいか悪いか、ちゃんと決めて生きていたくて、
というか決まっていないと自分の基準をどこに置いたらいいのか分からなくてぐらぐらする、そんな人種。
けれど今俺は、かなりグレーなエリアに足を踏み入れようとしている。
「風俗はセーフ、なのか?」
風俗は浮気かどうか、それは人によると思う。
少なくとも以前の俺にとっては浮気という認識だったけれど、相手がそうは思わないというのならまあそうとしよう。
要はちゃんと決められていれば安心するので、その内容に強いこだわりはない。
ゲイ用風俗、いわゆる売り専に予約を入れてから今の今までずっと緊張しながら玄関のチャイムが鳴るのを待っている自分がちょっと滑稽だ。
ゲイを自覚したのは中学生の頃で、恋人が欲しいなと思い始めたのは大学に入ってからだった。
世の中にはすでにマッチングアプリというのが普及していたから、相手に困ったことはない。
だから彼氏が途切れることはあまりなかったけれど、アプリで出会ったやつと別れてしばらく経って、
「そろそろ彼氏欲しいよなあ」みたいなタイミングで同じゼミのやつに友達以上の関係を求められた。
そいつが男もいけるとは知らなかったけど、お付き合いが始まってなんやかんや10か月。
一緒にいると楽だし、体の相性もいいし、なんなら顔がどタイプだし。つーかあの顔がタイプじゃない人間がいるなら連れてきてほしい。
そのくらい俺の彼氏はイケメンで、めちゃくちゃモテる。
交際は順調といえば順調だけれど、こうして俺がゲイ風俗の予約を入れたいうことはまあ問題がゼロというわけにはいかないかもしれない。
「あ、来たな」
部屋のインターフォンが鳴って、俺は玄関に向かった。
場所をホテルにするか自宅にするか迷ったけれど、知らない場所で知らない人に会うのを考えると勇気が萎んでしまいそうでやめた。
なんというか自分のテリトリーに入れるほうが、俺にとってはマシだった。
広くはないけれど一応ダイニングと寝室の2部屋あって、まあコトに及ぶと考えればメインは寝室なんだろうけど、一応全部掃除した。
普段から几帳面な方ではあって、それでもこんなに気合をいれて掃除してしまう自分に苦笑する。もうこれは生まれつきの性格の問題だから諦めている。
「こんにちは、アオイです」
「わ、」
「どうしました、」
「そ、想像以上に……」
ものすっっっげえイケメンが来た。なんだこれ。
宣材写真より盛れてる人間が来るなんて誰が思う?
身長は175cmの俺より10cmは確実に高い。堀が深くて鼻が高くて、もしかしてハーフなのかな。
色素の薄い茶色の目は優しくて、「入ってもいいですか?」なんて首をかしげられるとこくこくと頷くしかない。
初対面の人に対する緊張以上にイケメンと対峙する緊張がまさってしまって、ガチガチに固まったまま部屋に通すと「アオイくん」はふふと笑った。
「緊張してます?」
「やー、あの、ハイ」
「すなお。かわいーなぁ」
「いやいやいや、」
「ちょっと話しましょうか。タイマーはシャワー浴びるところからでいいので」
「え、」
あまりにもガチガチな俺に気を遣ってくれたのか、アオイくんは「ソファ座ってもいいですか?」と言った。
2人掛けのソファとローテーブルを置いたダイニングに芸能人レベルのアオイくんが座り、「え、これお茶とか入れた方がいい流れ?」なんてワケわかんないことでパニックを起こしてしまう。
アオイくんに手を引かれて、俺もその隣に腰をおろした。
人見知りなタイプではないと自覚しているけれど、まるで芸能人みたいなその見た目に圧倒されてしまってどこをみたらよいのかわからない。
いや、普通にソファに並んで座っているのだからそんなにまじまじ見なくてもいいわけだけど。
「こういうとこ利用するの初めてですか?」
「そうなんですよ今日が初めてなんですよそれでこんなイケメン来ちゃったらもう今後のハードル上がりまくりでしょどうしてくれるんですか困るでしょ」
「わは、早口」
「……」
「本当にかわいーなぁ……」
思わず俯いた俺の前髪をさらりとどかして、アオイくんは視線を合わせてくる。
やっべえ何このイケメン。何度見てもびっくりする。
「でもダメ、他指名したら」
「……ハイ」
「いい子」
年は同じくらいに見えるのに、この数回のやりとりで向こうの立場が強くなってしまった気がする。
そのせいなのかなんだかあやすような声で話されている気が……こっちは客だぞ?お客さまだぞ?……なーんて、言えないけどさ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 4