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「ただいま。」
大雨で電車が遅延してて、早く先輩に会いたくて、駅でタクシーを拾って帰ってきた。
なのに、家は鍵が閉まってて、真っ暗だ。
「先輩?まだ帰ってないんですか?」
先に帰って待っててと伝えたのに、どこに行ったんだろう?
寄り道?
雨すごいけど大丈夫かな。
靴を脱いでリビングに向かっていると、まだ俺が歩いていない床が濡れていることに気づく。
水滴は先輩の部屋に続いていて、恐る恐る先輩の部屋のドアを開けて灯りをつける。
「先輩…?」
先輩の部屋にも人影はない。
それどころか、いくつか物がなくなっている気がした。
パソコン、スマホの充電器、仕事の資料。
クローゼットを確認すると、下着類もごっそりと見つからない。
それに、先輩が出張の時に使っているはずのキャリーケースもない。
まさか…。
そんなはずないよな?
スマホを開いて、先輩に電話をかける。
繋がって…。お願い……。
『おかけになった電話をお呼び出しいたしましたが、お繋ぎできませんでした。』
先輩…、お願い……。
願っても、何度かけても同じアナウンスが流れる。
何もありませんように…。
心配と不安が襲ってくる。
とにかく探しに行こうと外に出ようとした時、玄関のドアにあるポストが音を立てた。
中を確認すると、そこには先輩の鍵が入っていた。
「嘘……だろ……?」
先輩が出て行った?
なんで?
昨日の一件で?
でも、明日ちゃんと話そうって、今朝までそう言って…。
「……!!」
そうだ、朝に那瑠と会ったって…。
その時何か言われたのか?
俺の言葉じゃなくて、那瑠の言葉を鵜呑みにしたのか?
いや、違う…。
職場では明日話そうって言ってたんだから、あの後何かがあったんだ。
まさか、さっきホテルに入るのを見た…とか…?
もし、そうだとしたら先輩はきっと深く傷ついた。
俺だって、もし先輩が俺以外の誰かとホテルに入っているところを見たら、胸が張り裂けそうな気持ちになる。
「先輩…どこっ…?」
大雨の中、思い当たる場所を探し回る。
傘はほぼ無意味で、全身濡れて気持ち悪い。
そんなことどうでもよく思えるくらい、今は頭に先輩のことしか浮かばなかった。
先輩の前の家、初めて繋がったホテル、水族館…。
色んなところを探し回ったけど、先輩は見つからなくて、俺との思い出の場所以外を考えた時にたどり着いたのは、柳津さんの家だった。
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