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「タンマタンマ。城崎、ちょっと待って。」
「何ですか…。」
「綾人の顔見て分かんない?どう見ても今無理だろ。一旦デスク戻れ。」
柳津さんが俺から先輩を隠す。
見れば分かるよ、先輩が今話せる状態じゃないってことくらい。
でも、認めたくなかった。
先輩が俺に怯えてるなんて、そんなこと。
「……先輩と話したいです。」
「ダメ。戻って。綾人、今話せないから。」
柳津さんは譲らなかった。
認めたくないけど、今先輩と話すのは難しそうだ。
それこそ、本当に俺が原因で先輩が過呼吸起こしたりしたら、俺のメンタルもタダでは済まない。
諦めてデスクに戻る。
「話せそう?怖いならやめとく?」
「……今日は…、無理…かも…。」
聞き耳を立てると、微かに先輩と柳津さんの声が聞こえる。
怖いって何…。俺が何したって言うんだよ…。
気になって、ずっと先輩を目で追う。
先輩は何かを書いて、部長のもとに行った。
しばらく話して、先輩はデスクに戻って帰り支度を始めた。
「皆さん、しばらくお休み頂きます。ご迷惑おかけします。」
先輩はそう言って、帰ってしまった。
俺は急いで先輩を追いかけた。
「先輩っ!」
「……っ」
会社のエントランスを出たところで追いつき、先輩を呼び止める。
「今日、帰ってきてくれますか…?」
「…………無理…。」
小さな声で返された言葉に、グサリと胸を抉られる。
「喧嘩しても家には帰るって、同棲始める時に決めたじゃないですか…。」
「…………ごめん。」
「どうして?俺に会いたくない?話したくない?」
尋ねても、先輩は無言を突き通す。
否定しないってことは、そうなのかな…。
過去の行いが先輩に嫌われてしまった原因なら、先輩にまた振り向いてもらうにはタイムマシンでも必要?
存在し得ないものに頼るしか、俺には挽回のチャンスがないの?
「先輩に話したいことあるんです。今少しだけでも時間もらえませんか?」
「無理…っ、ごめん…。」
先輩は俺から逃げるように走っていった。
俺は諦めがつかなくて、先輩を追いかける。
先輩はふらふらしてて、何度も躓きそうになって、俺は一段階ギアを上げた。
脚がもつれて転びそうになった先輩の腕を引いて、背中から抱きしめる。
「……っ、……捕まえた…」
「……離して…っ」
「嫌だ。離したら、話聞いてくれないでしょ?」
「離さなくても聞かない…。」
腕の中で小刻みに震える身体。
理由が知りたい。
いつから俺に怯えるようになってしまったのか。
どうして俺と話すことすら嫌になってしまったのか。
「先輩…、帰ってきて…。」
「嫌だ。帰らない…っ」
「お願い…。先輩がいないと俺、生きていけない…。」
今の俺には、抱きしめて懇願することしかできなかった。
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