アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
37
-
もう近くまで来ているのだろうか?
それとも、途中で気持ちの変化があったのだろうか?
分からなくて、とにかく傘もささず、無我夢中で走った。
駅までの通り道、マンションが見える路地で、小さくかがみ込んでいる先輩がいた。
「先輩っ…!!!」
抱き寄せると、先輩は小刻みに震え、また息を乱していた。
はぁ、はぁ、と苦しそうに息を吐きながら、俺の体を押し返す。
「……っ、ぁ、やだ…っ」
「先輩っ!先輩っ!!」
「ごめん…、ごめんなさい……っ」
先輩は謝った。
何に謝っているのか分からなくて混乱する。
「先輩、ゆっくり息して…。深呼吸して。大丈夫…、大丈夫だから…。」
「ひぅっ…、うっ…」
できるだけ優しい声で、ゆっくりと話しかける。
背中を摩ると、先輩はなんとか息を整え、ちらりと上目遣いに俺を見た。
「………城…崎…?」
「うん。俺ですよ…。」
可愛い。
頭を撫でて目を見つめると、先輩はまたほろりと涙をこぼした。
「うっ…、ひっく…、ごめんなさい……。」
「何で謝るの?」
「ごめん…。ごめんな…っ。」
「先輩……」
謝ってほしいわけじゃない。
ただ、俺の元に帰ってきてほしいだけなのに。
むしろ謝るのは、こんなことになる原因を作った俺なのに。
「城崎……っ」
先輩は震える手で俺の服を握りしめた。
何か伝えようとしているのを、ゆっくりと待つ。
「距離…っ、置きたい……。」
「え……?」
先輩の口から発せられたのは、俺には受け入れ難い申し出だった。
なんで?
そんな話をするために、俺に会いにきたの?
「時間が…欲しい……っ」
「嫌だ。嫌です。どうして?」
「……お願い……」
「だって距離置いてどうなるんですか?解決するんですか?」
そうだ。何も解決しない。
距離を置いてできるのは、心の距離だけだ。
別れる前兆…?
そんなの許さない。絶対に嫌だ。
「もう…苦しいんだ……。」
「俺は一緒にいない方が苦しいです。」
先輩はきっと、何か勘違いしてるだけだ。
だって柳津さんも言ってた。
先輩も過呼吸とか治したいと思ってるって。
それって、俺のことが嫌いじゃないってことでしょ?
また戻りたいって、そう思ってくれてるって思ってもいいんだよね?
「俺の話、聞いて?話したら解決するかも…」
「ごめん。」
先輩は俺の話を遮って逃げ出してしまった。
俺は豪雨の中、ショックでその場から動くことができなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
37 / 243