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仕事は結局全然手に付かず、その後も何度か先輩にメッセージを送り、定時になった。
仕事は終わっていなかったけど、使い物にならないから後日巻き返せということで、柳津さんに帰された。
不貞腐れてAquaにきたはいいものの……。
「麗子さん、夏月くんどうしたの?」
「大好きな彼に出て行かれちゃって、傷心してるのよ。」
「え?望月さんに?」
煙草吸いながら度数高めの酒を煽っていたら、隣に誰かが座った。
拓磨さんだ。
美容室では会うけど、Aquaで会うのは久しぶり。
拓磨さんには、このことまだ話してない。
「喧嘩?」
「喧嘩……ではないです。」
「聞いてもいい?」
「はい…。どうぞ食事しながらで。」
「ありがとう。」
拓磨さんは困った顔をして、とりあえず麗子ママにお酒とおつまみをもらって食事を始めた。
拓磨さんに5月からの俺たちのことを掻い摘んで話す。
「なるほどね。でも今はいい方向に向かってるんだ?」
「まぁ、はい…。先輩の出張終わったら、会うんです。土曜日に。」
「へぇ。いいじゃん。やっと夏月くんが言いたいこと言えるんじゃない?誤解が解けたらきっと解決するよ。」
「そうだといいんですけど…。」
別れ話だったらどうする?
さすがにそれはないと思いたいけど…。
いい話だったらいいのにな…。
「じゃあ何で今はご機嫌斜めなの?」
「………先輩のこと狙ってる人と出張行ってるんです。」
「ふふっ。」
「何がおかしいんですか…。」
拓磨さんが楽しそうに笑うから、俺はムッとして拓磨さんを睨む。
「ごめんごめん。夏月くんでも焦ることあるんだなって。なんかいつも余裕そうなイメージあったから。」
「それは俺が先輩と出会う前の話でしょ。」
「やっぱりファーストインプレッションってなかなか抜けないものだよ?でもそっか。心配なんだ、望月さんのこと。」
「先輩がその人に靡くことはないって信じてますけど、それより向こうから先輩に何かするんじゃないかって、気が気じゃなくて…。」
「うん。まぁそうだよね。でも今は待つしかできないじゃん?」
「はい…。」
「じゃあまずはその手に持ってるもの、仕舞おうか。」
「……?」
俺の指先には煙草。
さっき話の途中で新しいのを出したから、まだしばらく吸えそうだけど。
「何でですか?」
「夏月くん、煙草は望月さんが嫌いだからやめたって言ってなかった?」
「そうですけど…。」
「土曜日会うんでしょ?気づくか気づかないかは置いといて、自分が望月さんの立場になったときどう思う?自分のためにやめてくれてたものを、また始めてたら不安にならない?」
「あっ……」
そうだ。たしかに。
先輩が煙草嫌いだからやめてるの、先輩も知ってるし。
もし俺が先輩の立場だったら、心変わりしたのかとか、浮気したのかとか、絶対に疑ってしまう。
「やめる。」
「よろしい。」
持ってるカートンを全て拓磨さんに渡し、煙草と訣別する。
代わりに飴玉をもらい、それを口に含んだ。
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