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終業時間になり、先輩に声をかけようとすると、先輩のデスクには書類の山が積まれていた。
この時間にこの量……。
絶対部長に押し付けられたんだ。
先輩をいつまで残業させるつもりだよ?
何も言わずに書類の山の半分を取ると、先輩がハッと顔を上げた。
「っ…!城崎…」
「手伝います。」
「ありがとう…」
お互い無言で作業を進めた。
カタカタとキーボードを打つ音だけが俺の耳に届く。
先輩も集中しているようで、書類はほとんど片付いていた。
これ、今週末納期の結構大事なやつなんだけど、何で今更、しかも先輩だけに任せるのか。
部長の考えることが理解できなかった。
20時前、最後の入力が終了した。
「手伝わせて悪かったな…。」
「いえ…。どうせ部長がまた定時ギリギリに持ってきたんでしょう?」
「ご名答…。」
先輩はため息をついてそう言った。
あの部長、パワハラで訴えてやろうかな。
明日絶対に文句言ってやる。
「先輩、帰りましょう。」
「うん…」
駅から家までの道は、まだ先輩は不安そうに足がすくむ。
手を繋ぐと、少しほっとしたように息を吐いて、俺の隣を歩いてくれる。
その姿を見ると、俺は先輩に少しでも安心してもらえる存在に戻れているのだと実感するから好きだ。
家に着いて手を離し、リビングへ行こうとすると、先輩は俺を呼び止めて謝った。
「城崎……」
「……なんですか?」
「ごめん…。」
謝ってほしいわけではない。
だって、先輩が自分からあんなことはしないと思うから。
理由が聞きたい。
ああなるに至ってしまった経緯を。
「城崎が怒ってるの、蛇目と飲んだからだよな…?」
先輩は言いにくそうにそう言った。
は……?
「飲んだんですか。」
「え。」
「つい最近お酒で失敗したのに、遠方で、ましてや蛇目さんの前で酔ったんですか?」
「あ、あの…」
話が変わってきた。
あの写真は寝ている先輩を蛇目さんが脱がせて撮ったんだろうと、俺の中で落とし所を見つけて納得しようとしていたのに。
酔っていた…?
それって、故意にあいつと飲んで、案の定酔ってこうなったってこと?
つい最近あんなことがあったのに?
俺が駆けつけないと、誰かも知らない奴に抱かれていたかもしれなかったのに?
福岡なんて、俺はすぐに駆けつけることはできない。
それを分かっていて、蛇目さんと飲んだのか?
「先輩、俺が先輩のこと好きだからって、何でも許すと思ってませんか?」
「そんなわけないだろ!」
「じゃあなんで…?俺、本当に心配で心配でたまらなくて……。先輩は俺の気持ち考えたことありますか?」
悲しかった。
俺の気持ちを踏み躙られたように感じてしまった。
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