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囚われの人形は、自分だけの優しい神様に出会った
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「あーこれ、きっと跡残るなぁ……。誰かさんのせいで言い合いになったから、冷やすの遅くなったし」
阿古羅は隣で鎖骨を冷やしている俺を見て、不服そうにぼやいた。
「……ごめん」
「いやいや、謝んなくていいよ冗談だから。俺が庇いたいと思ったから庇ったんだし」
阿古羅が笑いながら首を振る。
「……そうかもしんないけど、冷やすの遅くなったのは、俺と言い合いしたせいじゃん」
「でも言い合い始めたの俺だから。海里は何も悪くねぇよ」
「悪いよ。俺、自分のことすげえ蔑ろにしてたし。俺が自分のこと蔑ろにしてなければ、今日言い合いにならなかったじゃん」
「まぁそれはそうだけど、海里がそういう風になったのって、あのクソ親が原因だろ? だから海里はなんも悪くねぇよ」
阿古羅はまた、手を上に上げた。
俺はまた反射的に、頭を手で隠した。
頭を撫でようとしていると分かっているのに、身体が無駄に反応する。
「ごめん。ありがとう、気遣ってくれて」
俺は手を下ろして、小さな声で言った。
「ん。もうだいぶ冷やしたか? 包帯巻いてやるから、傷見せろよ」
手を下ろしてから、阿古羅は俺に笑いかける。
「え? 包帯なんてどこにあるんだよ?」
「ここにある」
阿古羅は鞄から包帯を取り出した。
「なんで鞄の中に包帯が入ってるんだ」
俺は思わず眉間に皺を寄せた。
絆創膏とかならまだわかるが、包帯が入っているのはあまりに用意周到すぎる。
「えーとそれは、俺がおっちょこちょいだからだよ。よく怪我すんの」
足のことを言っているのだろうか?
「……その足は、ドジでやったのか?」
「……そういうこと!」
阿古羅は一瞬だけ目尻を下げて悲しそうに顔を伏せてから、笑って俺の言葉に頷いた。
お互いの火傷したとこに包帯を巻き終えた直後、俺のお腹が、ぐーっと音を立てた。
「あ」
思わず頬が赤く染まる。
「アハハ! もしかして海里、昼飯まだなのか? これ、ベンチで食う? つっても、もう冷めてると思うけど」
阿古羅はそういうと、スクバの隣にあるコンビニの袋から野菜が沢山入ったグラタンとスプーンを取りだした。
「……いい。阿古羅のだろ」
「フッ。遠慮すんなよ。俺のはもう一個あるから」
グラタンとスプーンを俺に手渡してから、阿古羅はコンビニの袋からやきそばパンを取り出す。
「ありがとう」
俺は冷めたグラタンとスプーンを片手で持つと、もう片方の手で床にあった阿古羅のブレザーを持った。
「おっ。気が利くじゃん。じゃ、ベンチに行くか」
阿古羅が空になったコンビニの袋をゴミ箱に捨ててから、鞄を肩に掛けて、楽しそうに言う。
「うん」
俺は首を上下に動かして頷いた。
「え?」
俺はトイレを出ると、公園の様子を見て足を止めた。
公園は遊具も木もなくて、トイレの他にはベンチが隅に一つ置かれているだけだった。
不自然なくらいものが少ない。……こんな公園があるのか。
父さんのことがあってさっきまで焦っていたからか、俺は今更のように公園の異様さに困惑した。
「……ここ、寂しい公園だよな」
阿古羅が俺の隣に来ていう。
「うん。なんで遊具が一つもないんだ?」
「自殺防止のため。何年か前に、ここで人が死んだんだ。桜の木に縄をくくりつけて首をつってな。それからすぐに木は切り落とされて、遊具も撤去されたらしい。子供が真似して木や遊具に縄をくくりつけて首をつったら、洒落にならないから」
「よく知ってるな」
「死んだ奴が親父の知り合いだから。まぁ知り合いって言っても、別に友達でも何でもなくて、仕事関係で少しだけ話したことがある程度みたいだけどな」
「そっか……」
「海里、飯食おうぜ。早く食わないと、昼休み終わっちまう」
阿古羅が公園のベンチを顎で示す。
「うっ、うん」
俺は阿古羅と一緒にベンチに向かった。
「っ」
ベンチで阿古羅と一緒にご飯を食べていたら、涙腺が緩んで涙が出てきた。
「海里? どうした? グラタン不味かったか?」
「違う。美味しい」
涙を流しながら、俺は首を振った。
「じゃあなんで」
「俺、虐待のせいでいつも昼飯抜かれてて」
「それならこれからは俺が海里の分の昼飯も買ってやるから、学校の日は毎日一緒にお昼食べようぜ」
阿古羅が笑って言う。
「え、いいの?」
「ああ。俺がしたくてやるだけだから、海里はなんも気にしなくていい」
「で、でも」
「でもじゃねえの。お昼食べないなんて俺が許さないから」
「……う、うん」
俺は戸惑いながら頷いた。
「かーいーりー!」
その日の放課後。
教室で帰り支度をしていると、廊下にいた阿古羅に大声で名前を呼ばれた。
「え? 井島ってチャラ男と仲良いのか?」
俺の前の席にいる佐藤が、阿古羅を見ながら言う。
阿古羅ってチャラ男って呼ばれているのか。……俺だったら絶対嫌だな。
「まあ、一応」
今日初めて話したけど。
「一応ってなんだよ! 一応って!」
教室に入ってきた阿古羅が俺の隣に来て、手を上にあげる。俺は反射的に、顔を手で隠した。
「えっ、井島どうした?」
佐藤が不思議そうに首を傾げる。
「なんでもない。阿古羅、来て」
「おー」
俺は手を下ろすと、鞄を肩に掛けて、阿古羅の腕を引いて教室を出た。
俺は廊下の人気のないところまで歩いてから、阿古羅の腕から手を離した。
「……頭触ろうとするのクセ?」
髪をいじりながら尋ねる。
「ああ。母親によくしてもらってたから、ついやっちゃうんだ。でも海里がそんなに嫌なら、これからはしないようにする」
俺を見て、阿古羅は作り笑いをした。
「……いいよ、しなくて。頑張って、拒否しないようにするから」
父さんや母さんでもないのに、撫でられるのを拒否するのなんて良くないと思った。
「え? 本当か?」
阿古羅がゆっくりと俺の頭に手を近づける。
身体が震えて、俺は思わず目を瞑った。
「フッ。海里は可愛いな」
阿古羅が手を下ろして言う。
「はあ?」
聞き捨てならない言葉に驚いて、俺は眉間に皺を寄せる。
かわいいって、俺は女子か!
「すげぇ素直で、可愛い」
「なっ!?……うっさい!」
素直だなんて言われたのすごい久しぶりで、小っ恥ずかしくて顔が赤くなった。
「ククッ。照れてんのか?」
阿古羅は笑いながら、俺の顔を覗き込んだ。
図星だった俺は、つい阿古羅から目を逸らした。
「そっ、そんなことない」
「ふーん? お前さ、これから用事とかある?」
阿古羅は俺を見ながら、本当に? とでも言うように首を傾げてから、急に話題を変えた。
「……ない、けど」
目線を下にやって、か細い声で言う。
「けど?」
目線を俺に合わせて、阿古羅は言う。
「早く帰んないと、父さんに警察に行ったんじゃないかとかあらぬ疑いをかけられて、めちゃくちゃ暴力振るわれる」
「海里、本当に俺んち来ないか?」
「行かない。金ないから、居候になるし」
首を勢いよく振って否定する。
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