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囚われの人形は、自分だけの優しい神様に出会った
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「おっ、いい顔すんじゃん。いつもそうやって笑ってろよ」
阿古羅が俺に笑いかける。
俺は何も言わず、顔を伏せた。
――地獄にいるのに、いつも笑えるわけない。
「はぁー。すぐに暗くなるなよ。来いよ。面白いとこ連れてってやる」
阿古羅は俺の腕を引いて、階段の方に向かった。
「面白いとこって、どこ?」
「プリクラだよ。プリクラ!」
「プリクラ?」
「ああ。意外と楽しいんだぜプリクラって」
「なんでそんなこと知ってんだよ?」
「女友達めっちゃいるから」
とても嫌な答えが返ってきた。
どんだけチャラいんだこいつ。
「そいつらはお前のこと男友達じゃなくて、彼氏にしたい男として見てんじゃないのか?」
「アハハ! それはねぇよ。俺が本命作らない主義なのあいつらも知ってるし」
阿古羅の言葉に俺は絶句する。どうりでチャラ男って言われているわけだ。
「本命作らないのか?」
「だってめんどくさいじゃん。何かあればすぐ嫉妬されたりとか、些細なすれ違いで喧嘩したりとかさ。そういうのも含めて恋愛の楽しみだとかいう奴も中にはいるんだろうけど、俺はそうは思えないから。それに、俺子供とか作る気ないから。長く付き合うと、そういうのって言いづらくなんじゃん?」
意外と理由がちゃんとしていた。
セフレか女友達だとそういういざこざの心配が一切ないから、そうしてるってことか。
「何で子供作りたくないんだ?」
「先に子供が死んだらやだから」
お昼の時にも一度だけ見せた何処か暗くて、闇が深そうな顔をして、か細い小さな声で阿古羅はいう。
「何でそんなに人が死ぬのが嫌なんだ?」
阿古羅は俺を必死で生かそうとしていた。
死にたくないって想いがあることに気づかせるために、わざわざ俺にはさみを向けた。そうすることで必死に、死にたくないって想いを思い出させようとしていた。
一体どうして、阿古羅はそんなことをしたんだ?
「はは、海里俺に質問しすぎ。別にいいだろ、理由なんて。早く四階いこうぜ」
阿古羅は作り笑いをして、四階に向かった。
どうやら、相当答えたくないらしい。
俺はしぶしぶ、阿古羅の後をついて行った。
「え? 阿古羅入んないのか?」
阿古羅は四階の入り口の手前で、足を止めた。
「ちょっと待ってて」
「え? うん」
首を傾げながら、俺は頷く。
「あ」
【男性のみでのお入りはおやめください】
四階の入り口の床に書かれた文字を見て、俺はつい声を漏らした。
「……入れないじゃん」
「入れるようになるから、ちょっと待ってろ」
ニヤニヤと笑って、阿古羅は言う。
「えっ。阿古羅、それどういう意味?」
「あのー、プリクラ撮りたいんですか?」
突然、背後から声をかけられる。
後ろに振り向くと、同級生くらいの二人の女の子がこちらを見ていた。
一人は茶色い髪でぱっちりとした目のかわいい女の子。身長はたぶん、百五十もいっていない。かなり小柄だ。
もう一人は黒髪で、百七十の俺より俺より少し低いくらいの身長をした切れの瞳がかっこいい感じの子。
随分真逆なメンツだ。
低身長の子が、首を傾げて俺達を見ていた。
どうやら、撮りたいんですか? と聞いてきたのはこの子のようだ。
高身長の子は興味なさそうな顔で、俺達を見ていた。クールな子なのかもしれない。
「そうなんだよ! こいつ親が厳しいからあんまり放課後に遊んだことがないみたいでさ、今日初めてゲーセン来たんだよ! それで色々体験させてやりたいと思ってさ、プリクラも撮らせてやりたかったんだけど……」
阿古羅はわざとらしいくらい残念そうにしょぼくれた。
あざとい。
二人に協力してもらってプリクラを撮ろうとしているのが見え見えだ。
「……これが狙い?」
二人に聞こえないように、小声で聞く。
「せーかい」
小声でそういって、阿古羅は俺を見ながら、楽しそうに笑った。
「あの、よかったら四人で撮りませんか? それなら問題なく入場できますし」
低身長の子が笑って、阿古羅の思惑通りの言葉を言う。
「え、四人で撮んの? 初対面なのに?」
高身長の子が、眉間に皺をよせて突っ込む。
ごもっともな意見だ。俺もそう思う。
「うん、ダメかな?」
「……まあ、別にいいけど」
低身長の子に上目使いで見つめられると、高身長の子はしょうがないとでも言うかのように、しぶしぶといった感じで頷いた。
いいのかよ。
「マジで? じゃあ、お言葉に甘えて!」
女の子達を交互に見て、上機嫌な様子で阿古羅は言う。
俺は何も言わず、眉間に皺を寄せた。
何がお言葉に甘えてだ!
可笑しすぎるだろ!!
「おー、何だよその顔は。この俺がせっかくお前を楽しませようとしてんのに」
「何でそれで選ぶのがプリクラで、メンツが半分初対面なんだ? 可笑しくないか?」
あまりにツッコミどころが満載だ。
「じゃあ二人で撮るか? 四人で機械のとこまで行って。お前、そんなひでぇことできんだ?」
こいつ、タチが悪い。
わざと女子達にも聞こえる声で話してやがる。
「卑怯だ」
「いいから撮ろうぜ? 絶対楽しいからさ」
笑いながら、自信満々な様子で阿古羅はいう。
「……わかった」
俺はしぶしぶ頷いた。
こうして、俺達は四人でプリクラを撮ることになった。
余りに変だ。
「じゃあとりあえず自己紹介でもしながら、複数人で撮れるプリクラ探しましょう! あたし、咲坂奈緒って言います。高校一年生です」
四人で四階の廊下を歩き始めた直後、低身長の子が笑いながら言う。
「茅野美和。私も高一」
高身長の子が咲坂につづいて、素っ気なくいう。
「俺は阿古羅零次。で、こっちは井島海里。俺達も高一だよ」
阿古羅はウインクをして、チャラい雰囲気を作って言った。
「みんな同い年なんだ! じゃあ敬語にしなくていいよね?」
口の前に手をやって、咲坂は嬉しそうに笑う。
「ああ! 海里も問題ないよな?」
「……まぁ」
素っ気なく頷く。
タメ口で話したら、もう友達も当然だよな。
友達なんて、作って良いのかな。この俺が。
「海里、大丈夫。お前の身に何かあったら、必ず俺が助けるから」
不安そうな顔をしている俺を見て、笑って阿古羅は言う。咲坂達に聞こえるのが恥ずかしかったのかひそひそ話をする時みたいな声量だったけど、ちゃんと聞こえた。
俺は笑って、阿古羅と同じくらいの声の大きさで礼を言った。
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