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囚われの人形は、自分だけの優しい神様に出会った
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俺達はその後、一分もしないうちに複数人で撮れるプリクラの機械を見つけた。
カーテンを開けて中に入ると、そこには変わった空間が広がっていた。
右端と左端に荷物置き場のようなとこがあって、中央にタッチパネルで操作できる大きな画面がある。画面の周りは白いライトで照らされていて、天井の少し下には、カメラとスピーカが設置されている。さらに床には、足のマークのシールが貼られていた。
「こんな風になってるんだな」
「ああ。面白いだろ?」
「うん。スマフォとかで中がどうなってるか調べたことはあったけど、それと実際に見るのじゃ全然違うし、凄く新鮮だ」
「ならよかった。海里、最初に小銭入れろよ」
そう言って、阿古羅が鞄から財布を取り出して、俺に手渡す。
「あれ? 海里くん、お財布持ってないの?」
咲坂が首を傾げて言う。
言葉が詰まる。
どうしよう。虐待をされてるから金をもらえてないなんて言いたくない。でも、何か言わないと怪しまれるよな。
「こいつ、今日みたいに放課後遊べることなんて本当に滅多にないから、いつも財布持って来ないんだよ。お昼はお弁当だしな。だから、いつものクセで持ってくるの忘れたんだよな?」
阿古羅が俺を見てウィクをする。
「うっ、うん。そうなんだ」
「そっか。お母さんとお父さん、そんなに怖いの?」
「……う、うん。父さん、ちょっと怖いかも」
本当はちょっとじゃなくて、滅茶苦茶怖い。
「そうなんだ。何か私にできそうなことあったら、言ってね? 力になるから!」
咲坂が俺の手を握って言う。
「ありがとう」
俺は無理矢理口角をあげて礼を言った。
多分頼ることはないだろうな、虐待のせいで女子に怪我なんかさせたら洒落にならないし。
俺はその後、すぐに自分の分と阿古羅の分の小銭を入れた。
『チャリン!』なんて音が二回して、画面に映っていた0/4という数字が、2/4に切り替わる。
奈緒と美和が俺に続いて百円ずつ小銭を入れると、突然画面が切り替わった。
『好きなプリのモードを選んでね!』
「うわっ、何か喋ってる!」
「え、海里くんって本当にプリ撮ったことないんだね。ウケる」
機械の声に困惑してる俺を見ながら奈緒は言う。
いや別にウケないだろ。
「海里くん、背景どんなのがいい? ちょうど四つ選べるみたいだから、好きなの一つ選んでよ!」
咲坂は背景選択のところまで画面を進めてから、俺に声をかけた。
「うっ、うん」
画面には青や白など、シンプルな一色だけの背景や、ハート柄や花柄の背景、それに夜景や夕焼けのなど、様々な背景が表示されていた。
どれがいいんだろう。
「海里、気になんのとかねぇの?」
「……んー、特には」
「じゃあこれは?」
そう言って、阿古羅が夕焼けのを指さす。
「なんで夕焼け?」
「覚えといてくれよ、今日の夕方のことを。初めて放課後に友達と遊ぶことが出来たこの瞬間を」
〝虐待されて以来初めて〟と阿古羅は言わなかった。それはきっと、俺が咲坂達に虐待のことを知られたくないと思っているのをわかっていたからだ。
「……うん、わかった」
阿古羅の言葉に頷いて、夕焼けのを選ぶ。
「あたしはハートのがいいな。零次くんと美和は?」
咲坂はハート柄のを選択してから、茅野と阿古羅を見て首を傾げた。
茅野は夜景の背景を選んで、阿古羅は紫色の背景を選んだ。
ポジションとポージングをいちいち変えてプリを撮って、落書きブースに移動する。
落書きブースには横長の椅子と、落書きをするための機械が置いてあった。
明らかに四人で落書きをするための広さではない。
機械にも画面とタッチペンが二つしかついてないし。
「これって数あってんの?」
「あほ。ラクガキは二人でしかできないんだよ。ほら、プリって画面に写りさえすれば何人でも撮れるから、その一人一人のために機械を用意したら、いったい何台用意すれば良いのか、わからなくなるだろ?」
ああ、そういうことか。
『分割数を選んでね!』
咲坂が椅子に座って画面をタッチペンで操作すると、機械からそんな声が聞こえてきた。
「分割?」
「ああ、四人用に切れるように、プリを分けんだよ」
そういうと、零次は奈緒の隣に座って、画面をタッチペンで操作した。
「海里、落書きするか?」
プリの分割数を選んでいた阿古羅が俺の顔を覗き込んで、そんなことを言ってくる。
画面を見ると、プリの分割数を選ぶ画面から、落書きをする画面に切り替わっていた。
「えっ、俺……どういう風にやればいいかわかんないんだけど」
阿古羅と、その隣にいる咲坂を交互を見ながら俺は言う。
「クッ! そんな難しく考えんなよ。名前ひらがなで書いたり、日付のスタンプつけたりとかすればいいだけだから。楽しいから、やってみろよ。ちゃんとやり方教えてやるから」
「……うん」
阿古羅の顔を見ながら、こくりと頷く。
「美和も落書きする?」
「そうね」
そう言うと、茅野は咲坂と場所を交代した。
「海里」
阿古羅が俺の手にタッチペンを置いて、後ろに一歩下がる。
「ありがとう」
俺は礼を言って、さっきまで阿古羅が座っていた椅子に腰を下ろした。
落書き用の画面には、今ラクガキをしているプリの他にペンやスタンプ、メイクなどの項目があり、その他にはラクガキができる時間や、小さな撮ったプリの一覧みたいなのが映っていた。
「画面の上の方に、撮ったプリの一覧みたいなのがあるだろ? そん中から、ラクガキされてないプリを選ぶんだよ。そんで、例えばラクガキの項目からスタンプを選択したら、日付とか一言とかの項目が出てくるから、そこからまた選択して、好きなデザインを選んでプリのスタンプをやりたいとこに置けばいい。そんだけ」
画面を指さしながら、阿古羅がやり方を教えてくれる。
俺は阿古羅にいわれた通りラクガキがされてないプリを選択して、スタンプの日付の項目を選んだ。
「……色々あるな」
日付の項目には、丸文字やゴシック体で日付がかかれたのや、ハートの真ん中に日付が書かれているのなど、様々なものがあった。
「これとか、可愛くていいんじゃない?」
俺の後ろで画面を見ていた咲坂が、ピンク色のハートの中に白い丸文字で日付がかかれているスタンプを指さす。
「わかった」
俺はタッチペンを操作して、そのスタンプをプリの真ん中あたりに置いた。
「で、できた」
「ほら、簡単でしょ?」
小さく声を上げた俺を見て、咲坂は楽しそうに笑った。
「……うん」
「じゃ、どんどんラクガキするか? 海里」
「うっ、うん」
戸惑いながら俺が頷くと、阿古羅はとても嬉しそうに笑った。
それから三分もしないうちに俺達はラクガキを終え、分割数を選択し、阿古羅と咲坂がメアドを入力して保存するプリを選んだ。
「海里くん、ほら、出てきたよ」
咲坂が機械から出てきたプリをとって、俺に見せる。
ラクガキがちゃんと間違いなく印刷されている。……綺麗だ。
「あたし、そこで切ってくるね! 美和一緒に行こ!」
テーブルの上にハサミが置かれているところを指さして、咲坂は言った。
「はいはい」
茅野は適当に頷いて、咲坂と一緒にテーブルがあるとこまで歩いた。
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