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囚われの人形は、自分だけの優しい神様に出会った
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「はい、これ!」
咲坂が戻ってきて、俺と阿古羅に四等分にしたプリを一枚ずつ渡す。
「ありがとう」
俺は控えめな声で礼を言った。
「さんきゅー、奈緒ちゃん」
阿古羅がウィンクをして礼を言う。
「チャラい」
咲坂の隣にいる茅野が、阿古羅を見てとても嫌そうに顔を顰める。
「ええー! 美和ちゃんひどくねぇ?」
「だって事実でしょ」
「それだいぶ心外なんだけど!?」
茅野の冷静な言葉に、声を上げて阿古羅は突っ込んだ。
何だか漫才みたいだな。
「アハッ、アハハハ!!」
二人のやり取りが面白くて、俺はつい声を上げて笑った。
「海里くんって、笑うんだね」
俺を見て、咲坂は嬉しそうに言った。
「えっ」
「よかった笑ってくれて。海里くん、プリ撮ってる時もラクガキしてる時も全然笑ってくれないから、四人でって提案したの失敗だったのかと思ってたんだよねー。だから、笑ってくれて本当によかった!」
咲坂はそう言って、顔をしわくちゃにして心の底から笑った。
……俺、そんなに笑ってなかったのか。
「ほら! だから言っただろ! 笑った方がいいって! これからはできるだけ笑えよな!」
阿古羅が俺の顔を見ながら、眉間に皺を寄せて言う。
「……うん」
消え入りそうな声で頷く。
俺、笑って生きられるのかな。
「ねっ、ライン交換しよ。プリ送るからさ」
俺の顔を覗きこんで、咲坂は言った。
「えっ。でも俺、追加の仕方わかんない」
「じゃあやってあげるから、スマフォ貸して?」
「うん」
俺はポケットからスマフォを取り出すと、ラインを開いてから、咲坂に渡した。
「あ、奈緒ちゃんずりぃ。俺もまだ海里とライン交換してねぇのに」
咲坂が俺のスマフォを操作してるのを見ながら、阿古羅が不服そうにぼやく。
大人気なくて、まるで小学生みたいだ。
誰かにそんな風に言われたの初めてだ。嬉しくて、かあっと顔が赤くなる。俺は慌てて、阿古羅から目を逸らした。
「あ、そうなの? 海里くん、じゃあ零次くんと、美和にもにスマフォ渡していい?」
「うっ、うん。いいよ」
咲坂に聞かれて、俺は慌てて正気に戻った。
スマフォが手元に戻ってくる頃には、ラインの友達が二人から五人になっていた。俺はそれを見て、ちょっとだけ感動した。初めて家族以外の友達が追加できたから。
「こうして会えたのも何かの縁だしさ、四人でグループ作って、時々話でもしようよ。それでもしまた今日みたいに海里くんが遊べる日があったら、連絡とり合って集まろう?」
咲坂が歯を出して笑いながら、俺と阿古羅を交互に見る。
「いいじゃんそれ! じゃあ、二人ともライン交換しようぜ!」
「はいはい」
茅野は零次の言葉に適当に頷いた。
「うん!」
元気よく声を上げて、咲坂は笑う。
「楽しみだな、海里!」
二人とラインを交換してから、阿古羅が俺に笑いかける。
「……何が?」
「また遊ぶのがだよ! な?」
俺と咲坂と茅野の顔を順々に見て、阿古羅は笑う。
「うん!」
咲坂はまた元気よく頷いた。
「そうね」
茅野がほんの少しだけ口角を上げて頷いた。
阿古羅は返事をしない俺を、じっと見つめた。
「……まぁ、そうだな」
また遊べる気がしないけど。
その後、俺と阿古羅は咲坂達と分かれ、UFOキャッチャーでポテトチップスをとったり、レースゲーム機なんかをしたりして遊んだ。
早く家に帰らないと父さんに殴られると分かっていたのに、対戦ゲームで勝った方が次にするゲームを決めるだとか、負けた方がお菓子のゴミを捨てに行くだとかそんなよくわからないルールを作って、何時間も馬鹿やった。
そうやって俺は、酷い現実から目を背けたんだ。
「あー楽しかった! ごめんな? 短くて済むとか言ったのに、結局二時間もゲーセンつき合わせちまって。流石にそろそろ帰らないとだよな?」
阿古羅がそう言って、申し訳なさそうに顔の前で手を合わせる。
時刻は、午後六時を回っていた。
「……まあ、うん」
――帰りたくない。
できることなら、このまま明日の朝まで、阿古羅と一緒にいたい。
でも、帰らなきゃ。
「俺はあんな家、一生帰んなくていいと思うけどな」
「……でも、他に行く場所ないし」
今にも消えそうなくらい弱々しい声で、俺は言った。
「あるよ」
「え?」
「俺の家来ればいいじゃん」
阿古羅はそう躊躇いもなく言い放った。
「それは……」
居候なんてしたら、父さんを凄く怒らせるに決まってる。そんなの絶対ダメだ。
「やっぱ来ない?」
「うん。ごめん」
「フッ。謝んなくていいよ。仲良くなったばっかなのに同居提案されても戸惑うよな」
「……うん」
「海里、今日何で俺がお前をゲーセンにつき合わせたと思う?」
腕を組んで、阿古羅はいう。
「え。わかんない」
「実感して欲しかったからだよ。自分の環境の異常さを。そして思い出してほしかった、外の世界の楽しさを」
「……外の世界の楽しさ?」
俺はただ阿古羅の言葉を繰り返した。
「おう。プリのラクガキとか、ゲームすんの楽しかっただろ? そういうの感じてもらいたかったんだ。それで生きるのは楽しいことだって実感して欲しかった」
「……生きるのは、楽しい」
今にも消えそうな声で呟く。
虐待されるようになってから、そんなこと一度も考えてなかった。
「そう思えた?」
俺の顔を覗きこんで、不安げな様子で阿古羅は言う。
「……そう、だな。つまんなくはなかったな」
俺はそれに、浮かない声を取り繕って頷いた。
そうしないと、取り繕わないと、欲が出てしまいそうだったから。
本当は凄く楽しかったけど、そう言ったら、もっと遊びたいと思ってしまいそうだったから。
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